その昔はあちこちで走っていた、途中の通り道は違うにせよ、電車に並行して同じ区間を結ぶ競合系の路線バスも、最近は廃止が進み貴重な存在になりつつある。
文・写真:中山修一
(下田〜河津間を結ぶバスにまつわる写真付きフルサイズ版はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)
■伊豆急下田→河津を路線バスで行く
先日、現金を1円も使わずに超快適な旅ができるかを実験(別項「キャッシュレスの旅」で紹介)するため、静岡県・南伊豆の下田まで足を伸ばして泊まった翌日。
天城峠を越えて修善寺周りで自宅へ戻ろうと決め、スタート地点の伊豆急下田駅を出た次に降り立つ場所が、天城峠を通るバスの出発点になっている河津駅に決まった。
伊豆急下田→河津を移動するなら、通常は伊豆急行線の電車を使うハズ。電車で行くと所要時間15分ほどで、運賃はIC利用の場合503円だ。
しかしここでふと、『バスマガジンWeb』に寄稿を始めて以来、各地でしょっちゅう湧き出すようになった、ある欲求がここ下田でもジワジワ侵食し始めた「これバスで行けねえかな?」と。
■いい時間にバスあったぞ!!
伊豆急下田駅前に立っているバス路線案内の看板に目を通してみれば、どうやら下田駅〜河津駅間をつなぐ路線があるようだ。東海バスの「S32系統」がそれにあたるらしい。
同じく案内板から、河津行きは下田駅前バスターミナルの9番乗り場から出ていると分かり、そちらの時刻表をチェックすると、10:50発河津駅行きが記載されていた。
チェックアウト時間が10:00の宿を出て、駅前まで戻る10:04発のバスで25分ほど。何やら絶妙なタイミングでバスの設定があり、これなら是非使わせてもらいたい、とばかりに飛び付いた。
■起伏に富んだ見事な景色
10:50発のS32系統河津駅行きは下田駅が始発。中型路線車のいすゞエルガミオが使われていた。1人1席くらいの埋まり具合でお客さんを乗せて時間通りに出発すると、バスは一路、海のほうを目指して進んでいった。
しばらくすると、夏場は行楽客で賑わう白浜海岸の前を通過。この日はインバウンド系のお客さんが7人ほど乗っていて、どこを見に行くんだろう? と思ったところ、海岸沿いにある「白浜神社」のバス停で全員下車していった。
その後、海岸線をトレースするように通っている国道135号線(東伊豆道路)をメインルートに走行。海が近いだけに車窓からは見事なオーシャンビューが広がってくれた。
しかも高低差が結構あるようで、起伏に富んだ道筋は海あり山あり絶壁あり、峠越えの雰囲気までありと、色合い豊かで立体的な景色が続き、乗車中に目線を外から逸らす余裕がないほど幕の内な楽しさを覚えた。
15kmほどの距離を約30分で走ったのち、伊豆急行線の河津駅前に着いた。運賃は960円。所要時間/運賃面では電車よりも不利に働くかもしれないが、そこは景色の素晴らしさで相殺してくれたと思いたい。
■調べてみたら凄い路線!?
なかなかの名路線に感じた東海バスの下田駅〜河津駅系統、後でよくよく調べてみると、全国各地の絶景系一般路線バスの法則に合致していたのに気づいた。
景色の優れた場所を通る路線バス=本数が少ないのはこの路線も同様で、実は1日たった3本しかなかった。
河津方面への3本のうち2本は朝6・7時台に1本ずつ、下田方面への便は夕方に3本。近隣の学校が休校する日はそれぞれ1本が運休になるため、通学用に特化した路線と言えそうだ。
さらに、朝と夕方の便は全て「S05系統」になり、金原車庫〜下田〜河津〜伊豆稲取〜稲取高校上と、結ぶ区間も異なる。
とどのつまり下田駅〜河津駅間のS32系統は、河津駅行きの片道だけ1日1本しか走らないバスだったわけだ。そんな超限界系バスに下調べナシで乗れるとはまた縁起の良いことか。
1日半往復で1本だけ、なおかつ観光利用しやすい時間に走る路線バス……キャラクター像を推測すればするほど、探しても簡単には見つからない、物凄く特異な存在に思えてきた。
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