電車の線路と並行するような経路に加えて、行き先も電車とほぼ同じという、鉄道と競合関係にある路線バスも最近はだいぶ珍しくなってきたが、島根県にはそんな競合系の路線バスが今も何本か通っている。
文・写真:中山修一
(バスマガジンWeb/ベストカーWebギャラリー内に、島根県の競合系路線バスにまつわる写真があります)
■バスでも行ける山陰地方の小京都
今回注目するのは、石見交通が運行している「津和野線」。路線名の通り、山陰地方の小京都と言われる有名観光地、島根県の内陸部に位置する津和野へ行くバスだ。
島根県内の益田市内と津和野市内の間を結ぶ路線で、始発と終点が40km以上離れた位置関係。ごく普通の路線バスなのを踏まえると、なかなかの中距離を走る。
益田市内にはJR線の益田駅があり、新山口〜津和野を経由して益田を繋ぐ山口線の終点になっている。となれば、石見交通津和野線は山口線の津和野〜益田間とほぼ同じ区間を結んでいるため、競合系路線バスの一種に数えられるわけだ。
■駅は途中の停留所
津和野といえば山口線でしか行けない場所のようなイメージを持っていたゆえ、石見交通津和野線に目が留まった瞬間「ここバスあったんだ?」と、意外な事実に驚くと共にわき上がった新鮮味に惚れ込んで、ちょっと様子を見に行った。
益田市内には、同地の交通の要衝となっている益田駅を通るものの、別の場所が始発になっている路線バスが結構あり、津和野線もそれに該当する。
駅から3kmほど離れた、庭園が国の史跡と名勝に指定されている観光スポット・医光寺の隣にある、「医光寺前」バス停が津和野線の始発停留所だ。
1日5本と、いかにもなローカル路線バスのダイヤで、さすがにフラっと行って乗るには時の運を試されすぎてしまうため、出発時刻を予習してから向かうのが安心。
■二つの顔を使い分けるバス
医光寺前バス転回場に入ってきた津和野線の車種は、中型路線車いすゞエルガミオのノンステップ仕様。2022年に発売された現行(2025年5月時点)タイプだ。
中扉から乗って整理券を取り、前から降りる運賃後払い方式。石見交通では2023年3月から全国交通系ICカードに対応しており、津和野線でも使える。
バスが出発すると、益田市内の歴史系観光スポットが点在するエリアを、10分ほどかけて進む。医光寺前〜益田駅間は「雪舟ライン」の愛称が付いており、医光寺始発で益田駅を経由する各方面への路線バスが、同エリア内の観光アクセス手段を兼ねている。
この津和野線にも医光寺出発時、行先表示器に「雪舟ライン」の文字が併記されていた。近場散歩の軽い足と遠出向けのヘビーな乗り物、二つの顔を使い分けながら掛け持ちするバスというのもユニークな気がする。
■2本のレールに寄り添いながら
益田駅を経由して市街地を後にすると、一級河川の高津川沿いに敷かれた、津和野方面への実質的な1本道である国道9号線をほぼ道なりに南下していく。
国道の経路上、常にベッタリと寄り添うわけではないものの、JR山口線のレールと並行して進む区間が多いのはやはり競合系だけある。
鉄道代替バスでもよく似た、線路に寄り添った景色が見られるが、津和野線の隣に続くのは現役のレールであるところがミソ。
コメント
コメントの使い方