知ってた? 海外で更新したパスポートの秘密!! 香港乗りバス紀行

 海外旅行に行きたくてうずうずしている方も多いのではないだろうか。気軽に渡航できなくなりもう2年が経過する。海外旅行には必ず必要な旅券の有効期限は大丈夫だろうか。本稿ではコロナ以前の海外取材中に旅券更新をした体験を紹介する。

 ちょっぴりレアな旅券を10年持つチャンスがある方は「渡航自由化」を待ってチャレンジしていただきたい。なお内容は取材日現在のもので現在では異なっている可能性があるので確認の上でお読みいただきたい。

文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)

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日本国旅券の番号は英字2文字+7桁数字

 旅券(パスポート)は我々一般の民間人が持つ一般旅券と、政府の用務で渡航するための公用旅券、そして外交官が持つ外交旅券に大別される。外交や公用旅券は最強と思われがちだが一概にそうとも言えない。

一般旅券の例(10年用)
一般旅券の例(10年用)

 観光目的等の短期滞在において、日本国の一般旅券を所持して無査証(ビザなし)渡航ができる国や地域の数は、世界でもトップクラスの多さを誇る。ところが公用旅券や外交旅券だと査証取得が求められたり、そもそも渡航先が限定されていたりと不便な面も多いという。

 我々が持つことができる一般旅券には5年用と10年用があり、成年していれば選択が可能だ。この旅券の番号は有効であろうが失効しようが、1旅券当たり1つの固有番号と決められているので、更新しても運転免許証のように変わらないのではなく更新ごとに番号は変わる。

 2文字の英字と7桁の番号からなる旅券番号だが、日本では10年用の一般旅券の最初の英文字は「T」から始まるし、5年用は「M」から始まる。

 2文字目の英字は日本国内で都道府県のパスポートセンター等を経由して外務省から発給される旅券は、「A」から「Y」までが順に割り当てられる。記者が香港に乗りバス取材に行った当時、所持していた10年用の旅券はTHで始まっていたので、少なくとも現在ではAからHまでは払い出してしまったのではないだろうか。

海外でも旅券更新は可能!

 さて2文字目の「Z」がないが、日本の外務省ではなく日本の在外公館(大使館領事部や総領事館や領事事務所)で発行された場合は、どこの国や地域でもすべて2文字目は「Z」が使用される。

日本国内発給(上)と在外公館発給旅券(下)は旅券番号と発行官庁欄に違いアリ
日本国内発給(上)と在外公館発給旅券(下)は旅券番号と発行官庁欄に違いアリ

 海外で旅券の発給を受けるというと、旅行中に紛失や盗難にあうか海外在住の日本人かといったケースを思い浮かべるが、紛失した場合は更新などと悠長なことは言っておれず、帰国のための渡航書を速やかに発給してもらい旅行中止で日本直行となる場合が通常だ。

 そもそも有効な旅券が手元にないと戸籍抄本等の書類が必要で、そんなものは海外旅行中に持っていないのが普通だからだ。しかし有効な旅券の更新ならば、実は普通に在外公館でも要件を満たせば国内と同様に可能だ。これまで「更新」という用語を使用したが、実際にはどこで更新しても切り替えによる新規発給という扱いだ。

 新たに旅券発給を申請したり、失効や盗難・紛失による新規発給は必要な全部の書類をそろえて手続きを行わなければならないが、切り替えによる新規発給(更新)は現に有効な旅券がそこにあるので、ずいぶんと書類を省略することができる。これは国内でも海外でも同じだ。

海外更新には国や地域によりハードル!

 日本の在外公館では、有効な旅券の有効期間が1年を切っていれば更新ができる。これ自体は大きなハードルではない。しかし問題は渡航先のルールだ。無査証で入国できる国や地域が多いとはいえ、その条件は異なる。

 たとえば無査証でも構わないが、旅券の有効期間が1年以上残っていないと駄目だという国や地域では、そもそも1年を切った旅券では入国できないので更新どころではない。航空機にすら乗せてもらえない。

有効期間1年を切った状態で香港に上陸
有効期間1年を切った状態で香港に上陸

 コロナ以前の話ではあるが、記者が本誌取材のために鬼のような編集長から急に香港に海外出張を命じられた時には、すでに旅券の有効期間は1年を切っていて、しかも都庁で旅券を更新する時間的な余裕もない。

 香港の入国には問題はない(香港では滞在日数+1カ月間の有効期間があればよい)のだが、帰国後の渡航予定もあり出張がなければ東京で更新するつもりだったので、大急ぎで香港の日本総領事館の場所と必要書類を準備して香港に飛んだ。

旅券更新の実際は?

 香港では有効期間が1年を切った「TH」の旅券で入国した。その足で空港バスに乗り、バスの撮影をしながら乗り換えなしで日本領事館のあるビルに到着した。開館時刻まで待って46階の総領事館で旅券の更新である旨を伝えて中に入る。

 ビルの1フロアではあるが外国公館なので、中は香港の法律は適用されず、極論は日本国内と同じ扱いだ。窓口であらかじめそろえておいた申請書類と写真に手数料を添えて提出する。受理票が交付されるので大切に保管する。実はここからが大変なのだ。

総領事館で発行された受理票
総領事館で発行された受理票

 外国にいるのに手元には有効な旅券はなく、領事館発行の紙切れ1枚だけだ。旅券が発給されるのは3営業日後と国内よりもかなり早いのだが、現に外国にいるのに日本国籍を証明するものが何もないというのは不安この上ない。

 香港からはバスでもフェリーでもマカオに行けるし、電車で深セン手前のボーダーまで行けば徒歩で中国に、いずれも無査証で入れる。しかし手元に旅券がないのではマカオや中国はおろか、香港を出ることすらできない。要するに3営業日の間は香港から一歩も出ることはできないのだ。

新しい旅券には入国記録がない?

 香港は比較的自由な土地柄だったので、外貨両替時も宿泊時も旅券を提示することなく旅券のコピーや領事館発行の受理票で何事もなく事は運んだ。そして領事館で待ちに待った旅券の発給を受けて香港に入国した。

「TH」旅券は御役御免で無効化処理され返却。新たな「TZ」旅券が日本国籍を証明する公文書となった。

新しい旅券が発給されればすぐにでも深センに行ける!
新しい旅券が発給されればすぐにでも深センに行ける!

 ここで一つの疑問が出てきた。香港は入国証印(スタンプ)はなく別紙が発行されるだけだが、いずれにしてもTH旅券で入国しているので入国証明書のような紙片にもTH旅券の番号が印字されている。

 さて香港を出国する時にはすでにTH旅券は無効になっているため使えないし、TZ旅券は香港で発給されたので、香港当局には入国記録はないはずだ。これで帰国時に香港を出られなければ一大事だ。

 そこで向かったのが香港の出入国管理当局だ。滞在延長などのために多くの外国人がひしめく中でようやく記者の順番が回ってきて、つたない英語で「香港の日本総領事館で旅券を更新したために、新しい旅券に変わってしまったが入国証明書の紙片を発行替えしなくて大丈夫か?」という趣旨のことを尋ねた。

 非常に親切な女性の担当官は要旨「紙片をなくしたのであれば再発行することもできるが手数料がかかるのでおススメはしない。旅券が新しくなったのであればそのままで問題ないし、心配であれば古い旅券を添えて出せば出国できるので安心するように」との説明を受けて胸をなでおろす。

 事実、その足で中国側の深センに渡ったが問題なく香港を出国できた。もっとも深センから戻る際には新しいTZ旅券で入国するので日本に帰国するには全く心配する必要はなかった。

香港の路線バス運賃制度は特殊

 旅券の発給を待つ間は香港から出ることができないので、香港の路線バスであちこち回った。香港のバスは均一運賃でもなく乗車距離制運賃でもない。日本にはない制度で運賃が決定される。それは乗車地から終点までの運賃を乗車時に前払いするという制度だ。どこで降りても終点までの運賃を支払う。

香港はダブルでカー路線バスが多いので楽しい
香港はダブルでカー路線バスが多いので楽しい

 よって同じ区間でも終点までの距離が長いバスに乗れば高い運賃を支払うことになるが、路線ごとの運賃額は停留所に掲示してあるので確認すればよい。とはいえバスの運賃はかなり安いので、ICカード乗車券を持ってチャージしておけば地下鉄ほどガンガン減ることはなく、乗りバスを楽しめるはずだ。

発行官庁欄には外務省ではなく在外公館名が!

 ちなみに在外公館での旅券更新手数料は、日本国内の円建て手数料額をもとに定められた現地通貨建てで支払うことになっており、香港であれば香港ドルで支払うが、硬貨や高額紙幣での支払いはできない旨の案内がなされていた。(記事執筆時現在は1140香港ドル≒17000円)

開館前の在香港日本湖k総領事館(館内は撮影禁止)
開館前の在香港日本湖k総領事館(館内は撮影禁止)

 また為替の状況により手数料額は随時変更されるので、その都度確認してから渡航した方がよい。また必要書類も外務省のホームページから必要事項を入力して出力されたPDFをプリントして持っていく。

 自筆するのは自分のサインだけだ。有効な旅券があるので戸籍抄本等の書類は旧旅券から記載事項の変更がなければ不要な場合が多い。

 在外公館での旅券の切り替え発給は、帰国してからゆっくりと都道府県庁等で更新すればよいので通常は必要のない手続きだ。そんな時間があるのであれば、観光に費やした方が良いに決まっている。

 しかし、せっかく10年(または5年)に一度の海外発給チャンスのタイミングや条件が合うのであれば、チャレンジしてみるのも悪くはない。完全に趣味的な要素でしかないが、発行官庁の欄に英語で「外務省」ではなく在外公館名が記載された旅券を持つのもレアなものだ。

 通常は海外発行の旅券を持つのは駐在員や長期滞在者が圧倒的に多いため、帰国時の税関で「お仕事ですか?」と聞かれることが多くなったような気がする。

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