車内置き去り事件を撲滅できないのは何故!? ヒューマンエラーを防止せよ!!

■義務化される安全装置と残る弱点

 園バスを運行する施設は全国に約1万6000あるそうだ。複数台を持つ施設も少なくないので、園バス自体は2~3万台に上ると思われる。

 中には大型や中型のバスを使っているところもあるが、大勢を占めるのは三菱ローザやトヨタコースタークラスのマイクロバスか、トヨタハイエース、日産キャラバンなどのワゴンタイプである。

 今回義務付けとなる安全装置は、降車時確認式と自動検知式のいずれかとされている。

 降車時確認式は、エンジンを停止した後に車内後部の機器から音声やブザー音が鳴り、ドライバーや職員がその機器のボタンを押さないと鳴りやまないというもので、最後部まで歩いて車内を往復しなければならないので、残っている子どもがいれば確認できる仕組みとなる。

 自動検知式は、人の動きをカメラのセンサーなどで自動的に検知し、子どもが残っていればモニターや警音などで存在を知らせる仕組みである。いずれも異状確認後15分以内に車外に警報が伝わる機能が求められる。

 安全装置は2023年4月から、1年の経過措置を設けて義務化される。ただし熱中症の多発する夏を控え、同年6月までの設置を努力義務とするようだ。

 では安全装置が車両に装着されれば置き去りは防止されるのか。あくまでこの問題は人の意識如何によるところが大きい。国土交通省も安全装置は「ヒューマンエラーの補完」と位置づけており、乗降点検マニュアルの整備などと一体的に運用すべきとしている。

 機械は故障したり誤作動したりすることもあり得る。今回のガイドラインでも故障をアラームで通知する仕様を必須としているようだが、装置を扱うのも人間である。

 いちいち後ろまで確認に歩くのは面倒だとドライバーが感じたとき(特にマイクロバスやワゴンは運転席のドアから出て再度反対側の客室ドアから入らなければならない)、「大丈夫、そんな装置がなくても俺はちゃんと確認できる」と自分を過信し、装置のスイッチをオフにしてしまえば元の木阿弥である。

■プロの運行管理・安全管理の優位性

地元のバス事業者に貸切バスとして園バスを委託しているケース(千葉県)。安全面では非常に優れた手法といってよい
地元のバス事業者に貸切バスとして園バスを委託しているケース(千葉県)。安全面では非常に優れた手法といってよい

 園バスの大半は施設が雇った運転手が運転する自家用車である。営業運転者の退職後の職場という面もあるので、ドライバー自体は二種免許保有者も少なくないが、プロの職場と違って運行管理や安全管理の面で言うと格段に劣っていると言わざるを得ない。

 いくつか知り合いに聞いた範囲でも、アルコールチェックさえなされていないところばかりだった。

 前述のような人間の弱さを少しでもカバーするのが、プロの現場では法令のもとで行われている始業・終業点呼や車両点検などである。最近になって一定の車両数を抱える役所や施設等でアルコールチェックなどが義務化されたものの、まだまだ数台の園バスを保有するような施設の管理体制は稚拙なままだ。

 そういう意味では園バスの運行業務をプロのバスやタクシー事業者に委託する(貸切・特定または自家用車両の管理委託)ことも、安全への取り組みとしては効果的といえよう。

■もういちど「安全」の意識を高めるために

 園バスの置き去りは、あくまで“素人がやらかしたこと”ではある。しかしプロの営業バスの現場も含めてこれを“他山の石”とし、気の緩みを排し、ヒューマンエラーをなくす努力をしなければならない。

 確率的にはわずかながら、路線バスでも終点で眠っている乗客に気づかずに入庫し、営業所に朝まで置き去りといった事故は過去数回耳にしている。

 また、筆者が乗った高速バスで、途中休憩のSAで前を走る別の高速バスに積み残された乗客を救済したこともある。後者の方は乗客の自己責任の部分もある(そのようにあらかじめ告知する事業者もある)が、責任割合はどうであれ本来乗っているはずの乗客を途中で置いてきてしまえば責任問題にはなる。

 そのときさすがはバス業界というべきか、類似の事件が報告されると他人事とはせず、営業所には周知の掲示がなされ、対策が強化される。今は大半の乗合バス事業者でバスが終点に着くと、次の乗客を乗せる前、回送する前に乗務員が車内を点検しているはずだ。

 とはいえ、園バスの事件が人手不足による保育にあたるスタッフの多忙・業務過多や心のゆとりのなさが誘因となってルールの形骸化や意識の低下を招いたことが原因とするならば、人手不足が著しい現在のバス業界も同じ危険性をはらんでいるということもできる。

 とりわけ、お客さんと接する場ではない営業所での行動・所作はチェックの必要がある。例えば点呼。点呼を確実に行って業務にあたっていることは、素人の運転との大きな違いだが、それこそ形骸化していないかチェックする必要があろう。

 今の情勢だからマスクをしてのやり取りはやむを得ないとしても、終始マスクをしたまま決められた最小限の言葉のみのやり取りで済ませているケースを見ることがある。せめて一度はマスクを外し、きちんと顔色や表情を確認しての点呼をすべきだろう。

 自動化・システム化が進むようになったとはいえ、あと10年以上は最終的には人が判断し、制御する時代が続く。その判断や制御が人命を左右することを肝に銘じ、また人の命を預かる仕事に誇りを持つ現場であってほしいものだ。

【画像ギャラリー】痛ましいニュースはもう見たくない!! 通園バスへの園児置き去り事故を防ぐには!?(2枚)画像ギャラリー

最新号

【3月27日発売】巻頭特集は「立川バス」と「エルガEV試乗」!! 楽しいバスの企画満載の バスマガジン124号!!

【3月27日発売】巻頭特集は「立川バス」と「エルガEV試乗」!! 楽しいバスの企画満載の バスマガジン124号!!

【3月27日発売】巻頭特集は「立川バス」と「エルガEV試乗」!! 楽しいバスの企画満載の バスマガジン124号!!