今までにもアジアの空港バスを紹介したが、それらは運行整備やインフラが整っていて、日本のバスも手本にしなければならない部分も多かった。しかし、これから紹介するフィリピンでは、まだまだ「空港バス」という存在が確立されていない。
日本人がフィリピンの空港バスを利用すると「不合理なことだらけ」と感じるかもしれない。そんなフィリピンの空港バス事情を、日本から直行便のある首都マニラ、セブ、アンヘレスの3カ所から紹介しよう。
(記事の内容は、2019年4月現在のものです)
文、写真/谷川一巳
※2019年4月発売《バスマガジンvol.95》『エアポートバス乗ってわかった愉快だけどマジな話』より
■マニラの空港バスは公共交通運営に慣れていない
そもそもフィリピンでは路線バスが発達していない。鉄道は無いに等しいために長距離バスは発達しているが、都市内でバスに乗る機会はほとんどない。
ジープニーと呼ぶ公共交通機関がバス代わりだからで、ルートは決まっているが乗りたいところで乗り、降りたいところで降りられる。そのためバスは遠方か郊外に行くときしか利用機会がない。
また「飛行機に乗るのは裕福な人」であり、空港へ行くときはタクシーなどを使うので、空港バスの需要は少ない。これはフィリピンに限らず発展途上国共通の傾向で、空港バスはおもに外国人観光客用になっていることがしばしばある。
それでは首都マニラから空港バス事情を見てみよう。まずマニラのニノイアキノ国際空港は、空港そのものも不便にできている。
ターミナルが1、2、3、4と4つもあり、以前から国際線用だったターミナル1、フィリピン航空専用のターミナル2、新しくできたターミナル3、国内線のターミナル4があり、それぞれが離れている。
日本からの便も日本航空はターミナル1、フィリピン航空はターミナル2、ANAとセブパシフィック航空はターミナル3発着とばらけている。
■空港バスよりタクシーの方が安くて早い場合も!?
空港バスはUBEエクスプレス(Ultimate Bus Experience)が2016年から運行をはじめている。それまでは首都マニラでさえ空港バスはなかった。事前調査では5つのルートがあり、各ターミナルを回って市内各方面へ行き、運行間隔1時間、運賃300ペソ(約650円)というものだった。
1時間に1本しかなく、フィリピンの物価から考えて300ペソはあまりに高く、4つのターミナルは離れているのにどうやって回るのか、行く前から疑問だらけであった。何が疑問かというと、交通渋滞のひどいフィリピンで、どうやって時刻通りに4つのターミナルを回り、5方向にバスが走るのかというものだ。
また、運賃が高いのは、外国人の1人旅専用状態と考えた(2人ならタクシーのほうが得)ため。
しかし、現地に行ってみると案の定というか、事前調査通りではなかった。まず空港発はターミナル3から出発するのみで、ほかのターミナルからは利用できない。ただ市内から空港へ向かう場合は降車客がいればほかのターミナルも経由する。
ターミナル1にも空港バスの切符売場があったので、以前は事前調査通りだったようだが、うまくいかずターミナル3発に限定したと推測できる。
運賃は半額の150ペソになっていた。300ペソはあまりに非現実的であったのだろう。
空港から市内中心のロビンソン・エルミタを往復してみたが、空港から市内へは外国人観光客でほぼ満席の運行、ところが寄る場所が多く、バスは同じ道を行ったり来たりで、ラッシュ時ということもあり、真っすぐなら30分のところを2時間以上かけて運行した。
これに懲りてか市内から空港へ行くバスはガラガラ、ところが市内から空港へは始発以外のバス停から乗る場合は要予約のため、空港へノンストップ、35分しかかからなかった。
バスは中国製の新車で揃えられ、路線バス仕様であるが後部が横3列座席とゆったりしていて輸送力が足りていなかった。
空港そばを走る郊外バスは5列座席なので、空港バスは外国人観光客だけをターゲットにしていることが分かるが、「公共交通運営にまったく不慣れ」というのを感じ、おそらく次回マニラへ行ったときにはこの空港バスは廃止されていると感じたものである。そのぐらい使いにくい空港バスである。
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