マイカー依存が高い米国にあって、サンフランシスコは公共交通に対する依存度が高く、丘陵地帯が多いという地形的な特徴もあり、様々な交通機関が市民の暮らしや世界各国から訪れる観光客の足を支えている。
地下鉄は地形的な課題もあって発達していないものの、都市高速鉄道であるBART(バート)に加え、路面電車、トロリーバス、バス、ケーブルカーが運転され、CAL Trainが郊外列車を運行している。
(記事の内容は、2018年9月現在のものです)
取材・執筆・撮影/石鎚 翼
※2018年9月発売《バスマガジンvol.91》『Bus Magazine in Overseas』より
■クルマ社会のこの国にあって公共交通が市民生活に不可欠
市内の路線バス(トロリーバスを含む)、路面電車、ケーブルカーはSMFTA(San Francisco Municipal Transportation Agency・サンフランシスコ市交通局)が保有し、その下部機関であるMUNI(San Francisco Municipal Railway・サンフランシスコ市鉄道)が運行している。
バス路線は中心市街地にあたるMarket Streetを中心に市内各地へ伸びており、急行路線のほか、終夜運転を行う深夜路線も存在する。
トロリーバスも17路線で運行され、一部路線は路面電車と架線を共用する。路面電車は軌道を帰電線とするため、架線は1本でよいが、ゴムタイヤを履くトロリーバスは帰電線が別途必要であるため、+と−、両極性の2本の架線を使用する。
バスは、米国ではよく見られるが、前頭部分に自転車のキャリアが設けられており、坂道の多いサンフランシスコでは、下り坂は自転車で、上り坂はバスに自転車を乗せて、といった利用も可能である。自転車の積載は乗客が自身で行う。
近年はディーゼル・電気ハイブリッドバスの導入も進む。なお、路線バスは郊外路線を運行するGolden Gate Transitや、サンフランシスコの対岸、オークランド市に本拠を置くACトランジットのバスも乗り入れてくる。
オークランドとの間は流動が多く、ベイブリッジを渡るバスのほか、BARTも海底トンネルをくぐって直通するほか、フェリーも運航されている。ACトランジットやGREYHOUNDのような長距離バスは現在も開発工事が進むTransbay Transit Centerに発着し、MUNIの路線やBARTとの接続も図られている。
路線バスの普通運賃(現金乗車)は2.75ドルであり、最初の乗車から90分以内であれば他路線に乗り継いでも追加徴収されない。ただし、MUNIの提供するスマホアプリであるMUNI MobileやICカード「Clipper Card」を利用すると2.5ドルになる。
ほかにモバイルの1日乗車券も5ドルで用意されているが、ケーブルカーは利用できない。観光客向けには、ケーブルカーも利用できる1日、3日、7日間の乗車券も販売されている。なお、割引料金の適用範囲は日本とは大きく異なり、5〜18歳と65歳以上が半額となる。
■路面電車とケーブルカーは街のアイコンとして親しまれている
路面電車は8路線あり、市中心街のMarket Streetには地下区間も存在する。特筆すべきはFラインと呼ばれるフィッシャーマンズワーフとカストロを結ぶ路線で、1940年代に一世を風靡したPCCカーを中心に、全車がレトロな動態保存車によって運行されている。
イタリアをはじめ外国から転入した車両も在籍するPCCカーは、全米各都市で過去に存在した路面電車のカラーをまとって活躍しており、古き良きアメリカを感じさせるその姿は必見である。
なお、MUNIには日本の阪堺電軌や神戸市交通局の路面電車も譲渡されているが、現在は未だ営業運行には供されていないようだ。レストアが進めば、PCCカーやイタリアの電車に交じって、日本の路面電車が走る姿も見られるかもしれない。
サンフランシスコ名物ともいえるケーブルカーもMUNIによる運行で、廃止が進んだ現在は3路線が運行されているが、普通運賃は7ドルと、バスに比べると大変高額で、観光客向けのアトラクションとしての性格が強くなってしまった。
特にケーブルカーが向きを変える終点の駅では、そのシーンを見ようと人垣ができるほどである。ケーブルカーの操縦をつかさどるグリップマンもサービス精神旺盛で、時折笑いも誘いながら、楽しく乗車を楽しむことができる。
サンフランシスコは自動車大国・アメリカにあって、非常に多様な交通機関が活躍する大変興味深い都市である。観光地巡りはもちろん、多様な交通機関に揺られながらの街並み見物もまた、サンフランシスコの大きな魅力である。
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