道路と線路どっちも走れる「いいとこ取り」のDMV……実現まで90年以上かかったってマジ!?

道路と線路どっちも走れる「いいとこ取り」のDMV……実現まで90年以上かかったってマジ!?

 乗り合い方式の公共交通機関は、道路ならバス、線路なら電車やディーゼルカーと、種類の棲み分けがハッキリしている。そんな中、形はバスとよく似ていて「路線バス」と「列車」両方の機能を持った不思議な乗り物も存在する。

文・写真:中山修一
(バス/鉄道両用車にまつわる写真付き記事はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)

■バス以上電車未満な需要

鉄道はコストのかかる交通機関であり、特にローカル線の経営は厳しいのが実情
鉄道はコストのかかる交通機関であり、特にローカル線の経営は厳しいのが実情

 公共交通機関での移動は、道路上は路線バスを使い、駅に着いたら列車に乗り換えるのが一般的。それでも乗ってきたバスがそのまま線路を走って行けば確かに便利そうだし、実際に現物が作られている。

 道路と線路を1台でこなす旅客用の乗り物を作ろう、という発想が生まれたのは最近の話ではなく、ちょっと掘り下げると相当昔の時代まで遡れる。

 ただし、誕生のきっかけは便利さの追求よりも、鉄道会社が抱える問題が深く関わっていた。

 いわゆるローカル線と呼ばれる、日頃あまり客の乗らない不採算路線は昔から存在していた。通常の列車で運行するにはコストがかかりすぎる。

 かといって、あくまで公共サービスの鉄道を、無闇に廃止するわけにはいかない事情があったようだ。

 そこで、ローカル線の終点など、末端部分のマクロな交通をカバーしている路線バスが、そのまま線路に乗り入れて幹線の駅まで行けば、現状のインフラを活用しつつコストが抑えられるのでは? と考えた人がいたわけだ。

■はじまりはヨーロッパから

 記録に残っているもので、ごく初期に道路/線路両方を走れる乗り物が作られたのは1930年代始め頃の英国。「Ro-Railer(ロードレール・ビークル)」と呼ばれる、路線バスをベースにした車両だ。

 長さ約7.9m、幅約2.3m、26人乗りの少し小ぶりな車体で、通常のバス車両と同じフェンダーの位置に、外側にゴムタイヤ、内側に鉄車輪が取り付けられていた。

 鉄道モードへの切り替えは大型レンチを使って手動(ゴムタイヤを持ち上げ固定して接地しないようにする)で行った。

 道路上を60km/h、線路上を75km/hで走る計画であった。ところが実車を製作して試験に入ってみると、車体重量が軽いため鉄道モード時の粘着力が足りず勾配を登れない、振動が大きすぎる等の問題が多く、ごく短期間で立ち消えとなってしまった。

最近の旅客向け“軌陸両用車”といえば日本で開発されたDMV
最近の旅客向け“軌陸両用車”といえば日本で開発されたDMV

 次に登場した代表的なものが、1950年代に開発された西ドイツ国鉄の「シーネン・シュトラッセン・オムニブス」だ。シーネン=鉄路、シュトラッセン=道路、オムニブス=バスなので、ほぼそのままの意味が名称になっている。

 この車両は、長さ約11m、幅2.5mの、丸みを帯びた可愛らしいボディが載せられており、定員は67人。日本で言うところの大型路線車に近いサイズだ。最高速度は道路:80km/h、線路:120km/hであった。

 一応は道路/線路両用の乗り物に含まれるものの、鉄道モード時には外付けの台車を履かせる方式が採られており、駅に着くとその台車を取り付けるために大掛かりな作業が必要であった。

 シーネン・シュトラッセン・オムニブスは各ローカル線で営業運転が行われたとされる。ただしこちらも諸問題から運行期間はごく短く、用意された車両も大半が、台車を履かせず普通の路線バスとして使われたらしい。

■うまく行かない「いいとこ取り」

 英国と西ドイツに続き、やはりローカル線の赤字が問題になっていた日本の国鉄でも、運行コストを抑えるべく道路と線路を1台で賄える交通機関が、1960年代に研究されている。

JR北海道のDMV試験で使われた、浜小清水駅のモードチェンジ場
JR北海道のDMV試験で使われた、浜小清水駅のモードチェンジ場

 名称は「アンヒビアンバス」。乗り物では通常、アンヒビアン=水陸両用車の意味になるが、“両棲”という点では水陸も軌陸も同等ということで、この名が付けられたようだ。

 当時発売していたキャブオーバー方式の路線バス車両がベースで、全長10.6m、幅2.5m、70人ほどを乗せて最高100km/h程度で走行させる計画であった。

 実車が作られ試験も行われている。ところがアンヒビアンバスも問題が多く、実用化には至らなかった。

 その後何十年も経ち、2002年に再び道路/線路両用の乗り物が注目されることになる。多くの閑散路線を抱えていたJR北海道が開発に本腰を入れたのだ。

 JR北海道が計画した車両は、マイクロバスをベースに格納式の鉄車輪を取り付け、乗客を乗せたまま短時間で道路/鉄道モードの切り替えを行うというもので、「DMV(デュアル・モード・ビークル)」の名称が付けられた。

 道路上は普通のバスとして走行し、線路に入る際は車体の前後に格納している鉄車輪を下ろし、車体を少し浮かせてレールに載せる。

 鉄車輪に動力は繋がっておらず、鉄道モード時は後輪ダブルタイヤの内側をレールに密着させて、道路モード時と同様にタイヤを回して走らせる仕組みだ。

レールと密着するリアタイヤの内側だけ独特な減り方をする
レールと密着するリアタイヤの内側だけ独特な減り方をする

 2007年4月から、釧網本線の浜小清水〜藻琴2.9kmの区間で、予約制の試験営業運転を始め、各種データの収集が行われた。

 ところが数年後に訪れるJR北海道の方針転換によって、2014年9月にDMVの導入を断念する結果となってしまった。

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