神話の時代からの山岳信仰の地、長野市戸隠地区。そこを走るアルピコ交通の路線バスで、長年にわたり使用されてきたハイパワーかつ着席重視の山岳路線用車両。
バリアフリーの流れにあらがうかのように整備され続け、暑い夏の日も雪の降る冬の日も活躍した老兵たち。製造から四半世紀を経た彼らは、静かに姿を消していった……。
(記事の内容は、2024年12月現在のものです)
執筆・写真/ホリデー横浜
※2024年12月発売《バスマガジンvol.127》『アルピコのバスが絶滅危惧種になっている……』より
■急峻な山道を擁する戸隠高原高出力車の独壇場がついに終焉
長野県の戸隠(とがくし)高原を走るアルピコ交通の路線バス、「ループ橋経由戸隠線」および「県道戸隠線」。急峻な山道が続く道路条件ゆえに、これらの路線には長年にわたり高出力エンジンやロマンスシートを装備する床の高い車両が使用されてきた。
しかし、近年ではバリアフリーに関する意識の高まりや、それに伴う法規の整備などのため、メーカーや中古市場から供給される車両のラインナップが都市型低床車両へとシフトしており、これらの路線でも山岳路線ならではの車両が徐々に減っている状況であった。
2024年に入り、長らく戸隠高原で活動してきた山用の高出力キュービックが2台を数えるまでに減少し、それらが細々と稼働していたが、夏頃に相次いで退役したようで、アルピコ交通における山岳路線用車両がついに絶滅間近となった模様だ。
本記事では「戸隠高原」という地域特性を踏まえた山岳路線用車両の活躍を、写真とともに振り返ってみよう。
■神話の時代からの山岳信仰の地近年は自然やグルメが人気の戸隠

「信州」と呼ばれ、多くの観光客やウインタースポーツ愛好家に親しまれる長野県。その北部に位置する長野市戸隠地区は、古くは千年以上もの昔から山岳信仰の地として多くの人々を惹きつけてきた。
近年では、2015年に戸隠地区を含む一帯が上信越高原国立公園から分離され、新たに「妙高戸隠連山国立公園」として指定された。
山岳信仰とともに培われてきた独自の文化だけでなく、高原や湖などの自然を舞台に楽しむことができるキャンプやスキー、高原特有の自然条件を生かして栽培される薫り高く味も豊かな戸隠そばなどを目的に、今や戸隠地区は国内外から多くの人が訪れる一大観光地となっている。
■戸隠へのアクセスを担う路線バス……観光客向けと地元向けの棲み分け

戸隠地区へのアクセスを担うのは、長野県を代表するバス事業者のアルピコ交通が運行する路線バスだ。長野県の県都・長野市の中心部と戸隠地区を結ぶ路線は、現在冒頭の2路線が運行される。
「ループ橋経由戸隠線」(系統番号70)は、長野ターミナル・長野駅から、国宝として名高い善光寺や大男“だいだらぼっち”の伝説が残る大座法師池(飯綱高原)などを経由して戸隠地区へ至る路線だ。
この路線は季節によって戸隠地区の起終点が変わるという特徴がある。すなわち、春季から秋季までは戸隠キャンプ場が、冬季は戸隠スキー場が起終点となり、季節に応じた旅客のニーズに応えたものとなっている。
また、長野市街地で他の路線と重複する区間においては、主要な停留所にのみに停車する急行運転が行われることもこの路線の特徴である。
一方、「県道戸隠線」(系統番号73)は、長野ターミナル・長野駅から善光寺まではループ橋経由の路線と同じ経路をたどるが、その先は長野県道76号で芋井地区などを経て戸隠中社までを結んでいる。
なお、平日朝の長野駅方面行きの一部の便は、長野赤十字病院へと延長され、地元客の通院の足にもなっている。このように2つの路線で観光客と地元利用客の棲み分けが図られている。
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