大型バス横転事故の調査報告が公表!! 事故から学ぶバスと乗用車のブレーキの違いとは!?

大型バス横転事故の調査報告が公表!! 事故から学ぶバスと乗用車のブレーキの違いとは!?

 事業用自動車の交通事故防止と交通事故時の被害軽減を目的として設置された、国土交通省の外部委託組織である事業用自動車事故調査委員会は、令和4年(2022年)10月13日に静岡県駿東郡小山町で発生した大型貸切バスの横転事故に関する調査報告書を議決し公表した。

文:古川智規(バスマガジン編集部)
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事業用自動車事故調査委員会

事故車両の写真
事故車両の写真

 「事業用自動車事故調査委員会」は、平成26年(2014年)6月24日に設立された事業用自動車が関わる重大事故について、その原因を分析し再発防止策を提言するための事故調査機関である。

 社会的影響の大きな事業用自動車の重大事故については、事故の背景にある組織的・構造的問題の更なる解明を図るなど、より高度かつ複合的な事故要因の調査分析と、客観性のあるより質の高い再発防止策の提言を得ることが求められている。

 平成26年(2014年)6月 「交通事故総合分析センター」を事務局として、各分野の専門家から構成される「事業用自動車事故調査委員会」を設置し、事業用自動車の重大事故について事故要因の調査分析を行っている。

 本事故は「特別重要調査対象事故」に該当し、社会的影響の大きさだけでなく、事故原因が事業者の組織的・構造的な問題に起因する可能性のある、早期に有効な再発防止策の提言が必要であると判断された。

■事故概要と原因

事故の概略図
事故の概略図

 乗客34名を乗せた大型貸切バスが、富士山須走口五合目から小山町須走地区へ至る「ふじあざみライン」の、つづら折りの下り急勾配の道路を走行中にフットブレーキを多用。これによりフェード現象が発生して制動力を失い、事故地点のカーブを曲がり切れず道路左側の法面に衝突・横転した。この事故で乗客1名が死亡し、9名が重傷、18名が軽傷を負った。

 運転者が乗客の乗り心地を優先したフットブレーキによるスムーズな減速を選択をしたこと、およびフェード現象への認識を誤っていたことが主な原因とされる。

 また事業者、運行管理者が運転者に係る危険な運転特性を把握していなかったことや、初めての運行経路に不安を感じた運転者に潜む危険性を理解させる適切な指示をしていなかったことも原因とされている。

■対策

長い下り坂は特に注意
長い下り坂は特に注意

 適切な指導監督、および運行管理が必要で、初任運転者に係る自己流の危険な運転を防止するとともに、運転者の過去の運転経験を踏まえ、運行経路に潜む危険を理解させる適切な運行前指示が求められる。

 本調査報告書は事業用自動車事故調査委員会によって事業用自動車事故、および事故に伴い発生した被害の原因を調査・分析し、事故の防止と被害の軽減に寄与することを目的として作成している。よって事故の責任を問うために行われたものではないのは、海難審判や鉄道航空事故の調査と同じだ。

■記者のオピニオン

高速道路でも長い下り坂には注意!
高速道路でも長い下り坂には注意!

 同報告では、運転者の誤認識として「乗客に乗り心地が良いと思ってもらえる運転を心がけて、フットブレーキによるスムーズな減速を選択した。大型貸切バスの運転経験年数が短い運転者にとって、過去に経験のない急カーブと急勾配の連続した道であった。

 フェード現象に関する知識はあるが他人事で、フットブレーキを踏めばいつでも止まれるといった誤認識があった。フェード現象については教習所でも習っていて、先輩運転者からフットブレーキを使い過ぎると効かなくなるという話は聞いていたが、自分がそうなるとは全く思っていなかった。」としている。

 大型車のブレーキシステムは乗用車の油圧式のものとは異なり、重量のある車両を確実に止めるため圧縮空気を利用したエアブレーキを採用している。ブレーキの基本的な仕組みとしては油圧も空気圧も変わらない。

 これらはブレーキを踏み込む力を補助してくれる倍力装置が組み込まれており、乗用車であればエンジンを切ると倍力装置は効かなくなる。エンジンをかける際にブレーキペダルを踏み込むが、エンジンがかかるとブレーキペダルはさらに奥まで自然と踏み込めるようになる。これが倍力装置が効いた証拠だ。

 大型車はこれを圧縮空気で、さらに大きな力を得るようになっている。その代償として圧縮空気を作り出すコンプレッサーや圧縮空気をためておく「空気ダメ(タンク)」が必要になる。よって大型車には空気圧を表示するエアゲージのメーターがある。フットブレーキを短時間に何度も踏む(これをバタ踏みという)と空気がなくなりブレーキが効かなくなる。

 逆にずっと踏み続けると空気はなくならないが、ブレーキが過熱してピストンを押しているブレーキフルードが沸騰してホースの中に気泡ができ、圧力がかかっても気泡を押しているだけで結果としてブレーキが効かなくなる。これをベーパーロック現象というのは教習所で習ったはずだ。

 そこまで至らなくても、過熱により耐熱温度を超えてしまい、摩擦材が分解してガスとなり、まさかの潤滑剤の役割をしてしまうことをフェード現象というが、これも習ったはずである。本件はフェード現象により制動力を失った結果だが、摩擦による制動は長時間かつ連続して使用することによるリスクが大きいことは乗用車を運転する際にもぜひ知っておくべきだ。

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