■石神さんの御神体は「石」?
そして手水舎の向かいにあるのが多くの参拝者が目的とする石神社、石神さんである。ご神体はその名の通り「石」で、御祭神には日本神話に海の神(綿津見命)の娘、神武天皇の母として登場する玉依姫命が祀られている。こちらの創立については享保15年と文政4年の棟札が残されておリ慶長14年建立と記されている。
「諸国誌草稿」によれば、「本村創立の時から祀る。境内には楠の古木があり、長さ三間四尺(8m40cm) 、幹回り四丈九尺(14m70cm) あり、中は朽ちて洞穴のようになっていた」と伝えている。そもそもはこの場所にあったわけではなく、平成14年の移設までは一の鳥居の右手の小さな祠に祀られていた。
さらにその以前は現在の弘道小学校のそばにあったといい、正月のある晩、島田髷に結った女神が石神さんの元に現れたという言い伝えを相差の海女が古くから信仰し、海に潜る際の安全大漁を祈願してきた。そのことから、「女性の願いなら一つだけ必ず叶えてくれる」と言われるようになったという。
■報賽は忘れずに!
そしてお願いの仕方も一味変わっている。まず神社手前にある記載台に向かい、そこに置かれたピンクの願い用紙に願い事を1つだけ書く。続いて拝殿の前に進み鈴を鳴らしたあと、願い箱にお賽銭ではなく記入した用紙を入れて、参拝するという流れだ。
現在の場所に置かれたあと、いつからかその噂は広まり、今では「パワースポット巡り」の流行もあって石神さんはテレビや新聞、雑誌などに取り上げられ話題となり自家用車や観光バスが長蛇の列をなしたこともあったという。現在では年間20万人ほどが訪れるスポットになった。
筆者が参拝したこの日は平日であったが何人もの人が絶えず訪れていて、今でも変わらず人気パワースポットとなっているようだ。また参拝の後はお守りなどを授与してもらう姿も見られた。袋には見慣れない記号が書かれているものもあるが、これは相差の町を歩いていても頻繁に目に留まる図柄である。その昔、海女が潜水する時に使っていた「石いかり」と呼ばれるもので、現在は現役の海女がいる民家や民宿の玄関先で見ることができる。また不思議な模様は「セーマン、ドーマン」と呼ばれる魔除けの印である。
海女漁は危険をともなう漁のため、魔除けのお守りとして手ぬぐいや道具などに星の形の「セーマン」、格子模様の「ドーマン」の印をつけている。「セーマン」は一筆で書けることから、無事に帰ってこられるようにとの願いを込め、「ドーマン」の格子は多くの目で魔物を見張ると信じられている。
星の意匠は五芒星とも呼ばれ、陰陽師安倍晴明が用いたことで知られる。また格子模様の意匠は、いわゆる「九字切り」と呼ばれる修験道で用いられた九字護身法を図案化したものである。いずれも魔除けの力があると信じられ、海女に広がったもので現在でもこれらを用いて安全の祈願を行っている。
このようにお願い事をする際にお賽銭を納めないが、願いがかなったあかつきには報賽(お礼参り)をする。その際に絵馬を奉納する方が多いようだ。絵馬には通常、お願い事を書くが同社に奉納された絵馬には願いがかなったお礼の文言が並ぶ。俗っぽい言い方だが、誓願(願掛け)をして叶ったらお礼で絵馬を奉納するという珍しい、俗っぽい言い方をすると後払いのシステムなのだ。
女性の願いを1つだけなので、よく考えてお願いをして人事を尽くして天命を待つことにより神様が聞き届けてくれることだろう。そして、願いが叶えばもう一度参拝してよくお礼を申し上げるのが最低限の礼儀ではないだろうか。その際に絵馬を奉納するなり、お賽銭を納めるなり、報賽の御祈祷をお願いするなり各自の事情に合わせて神事を行うとよいだろう。
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