バスの運転士には、バスが好きな方や運転そのものが好きな方も多い。ベテランの運転士にバスの好みについていろいろと聞いてみた。アンケートで統計を取ったわけではないので、あくまでも個人の好みの話だ。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
(写真はすべてイメージで本文とは直接関係ありません)
■マニュアル?オートマチック?
最近のバスはAT車が主流で、路線バスタイプの車両はもはやマニュアル車は製造していない。これについて聞いてみると、多くの運転士がマニュアル派と回答した。それは運転の面白さとか楽しさとかそういう乗用車の次元ではなく、純粋に乗り心地や事故防止の観点からだ。
だいぶ改善はされてきたが、バスのATは運転者の意図しないところで自動変速する場合があるので加速はまだよいが、減速時に変なところでエンジンブレーキがかかり、急減速するということがある。
高齢者が立席だとどの速度からであっても意図しないところでの急減速は好ましくない。よってスムーズな加減速と、意図したギアを選択できるマニュアル車の方が結果的に好きという結論だ。
■ドアは折戸?グライド?スイング?
複数の運転士に聞いても、どれも善し悪しがあるので一概には言えないようだが、路線バスに限って言えば「グライドスライドドア」が良いという印象を持つ運転士が多いようだ。
現在最も普及していて、完成の域に達しているのが「折戸」だろう。折戸は開閉が早く乗降時間短縮に有利で構造が簡単で安価という利点がある一方で、開口部の広さに限界がありあまり広く取れないデメリットがある。
これを解決しよとしたのがグライドドアで、2枚の扉がそれぞれ左右に室内側に位置を変えることで扉が開く仕組みだ。折戸よりもかなり広い開口部にできることから、ベビーカーであればそのまま楽に前から乗せられるケースが多くなったということだ。
最近の先端車両ではプラグドアもあるにはある。乗客としては非常にスマートで見栄えがいい反面、運転士としては開閉に時間がかるので嫌われる傾向にある。高速車のスイングドアも同様で、最近では昼行用車両では折戸を選択する事業者が多い。一方でめったにドアを開閉せず、開閉時にほぼすべての乗客が乗降する夜行車両や貸切車両ではスイングドアで納車されることが多い。
■おたくの車両はどうなんですか?
さて、バスといっても車やバイクと同様に複数のメーカーが存在する。しかも今はそこまで複雑ではなくなってしまったが、シャシーとボディは別メーカーというのが当たり前だった時代がつい最近まであったのだ。そこで都市部と地方の運転士におたくの車両はどうなんですか?と聞いてみた。
都市部大手事業者運転士「うちは新車しか入りませんけど、それでもメーカーによりバラツキが大きいのは事実ですね。エアコンが悲しいほど効かないのはある特定のメーカー製の車両だったり、これは個体ごとの特性かもしれませんがシフトが入りにくかったりと色々ありますよ」
地方大手事業者運転士「うちは地方なのでコミュニティから高速までいろいろ乗りますけど、最近はATが多くなったとはいえ古い車両はマニュアルですからシフトが思ったように入らない個体はありますね」
都市部大手事業者運転士「ボディでいうと今はほとんどないと思いますけど西工(西日本車体工業)製の車両は賛否両論でしょうけど私は好きでした。ただしエアコンの吹き出し口が運転席のは遠いんですよね。それ以外はいいバスでした。年代もあるんでしょうけど、うちには日産ディーゼルしかなかったですけどパワフルで運転しやすかったです」
地方大手事業者運転士「あと、輸入車はちょっと尻込みします。いつ何時どこに不具合がでるかとビクビクですよ。走るのにはまったく問題がないのではssyしてしまえばそこは安心しているのですが、なにせ電気系統が弱くて発車したくてもドアが閉まらず1ミリも動けないとか」
都市部大手事業者運転士「SORA(水素バス)はいいですよね。モーターなのでバスとは思えない加速をしますからね。最初のころはお客さんもビビってました。苦情すら来ませんでしたが体感的には飛ばし過ぎと感じちゃうんでしょうね。しかも無音ですし」
と、運転士には運転士なりの好みや視点があるのだと感じた。乗客とは立場が異なるが、見ているところは結局のところダイヤや乗り心地や心地よい空間、それに最も重要な安全に関することなので、まわりまわって乗客の事を思っての好みだという部分もあることを知っていただければ幸いである。
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