■数名は始発から乗車?
再び国道42号線へ戻ったバスは、道の駅奥伊勢おおだいへ到着する。路線バスだが長時間の運転なので、松阪熊野線は途中2箇所の降車休憩があり、ここでは10分の休憩だ。路線バスを途中で降車というのはあまりないが、休憩なので降りてトイレに行ったり道の駅でちょっと買い物したりと思い思いの行動が可能だ。筆者を含めて4名の乗客は松阪駅前から乗車を続けている。
恐らく終点の三交南紀まで乗車するのだろう。筆者もトイレを済ませてバスの撮影を行った。運転士と話す機会があったが、バスの前面に「ありがとう熊野古道ライン」と引退を知らせる幕が掲示されていて、聞くとこの最近出来上がったものでまだ取り付けたばかりだという。たまたま乗車したとはいえ、結果的に出来たての幕を見ることができた。
バスは休憩を終え出発した。沿線には桜の木々が、まだ花咲く手前の姿で出迎えてくれる国道42号線を順調に南下していく。大台町、大紀町、紀北町へと向かい荷坂峠を下りていくと紀伊長島の町並みと遠くには海が見えてきた。
■海山バスセンター
2ヶ所目の休憩場所である海山バスセンターには定刻より約10分遅れで到着した。ここで2回目の休憩となり約10分停車した。かつては海山バスセンターで上下線のバスが並ぶ光景が見られたが、1日1往復となった今では過去のものだ。その代わりに名古屋南紀高速線の急行・名古屋行きが出発していった。休憩時間中に車内を撮影した。時刻は17時を回っており、夕暮れの日差しを浴びた車体と「熊野古道ライン」「HYBRID」の文字が輝いていた。
休憩を終えるとバスは熊野市に向けて走り出した。日が暮れ暗くなった車窓を眺めながら、いよいよ見るものも撮るものもなくなってきた。ここの区間を含めて乗降する乗客はおらず、同じメンバーを乗せてバスは走り続ける。
■終点「三交南紀」
熊野市に入るといよいよ長かった松阪熊野線も終点が近い。辺りは真っ暗なので、どこを走行しているかは地図アプリで確認しながらも運賃表に「三交南紀」が表示された。しばらくするとバスは右折し三交南紀のバス停のある南紀営業所に入り、敷地入口の停車位置に停まると終点である。
整理券と切符を手渡し、降車すると回送表示で車庫へと去っていった。3月上旬ではあるが肌寒い空気の中で、三交南紀バス停のある三重交通の南紀営業所の待合室で折り返しのバスを待つことにした。
■最終運行便の様子
そして3月31日は月曜日だが、最終運行日となった松阪駅前には多くの人が集まった。筆者も最後の運行を見守るためやってきた。予定の時刻になると、いつもと変わらず転回してやってきた。やってきたバスは先日乗車したいすゞエルガハイブリッド、1711号車だった。
バス停で待っていた乗客が次々と乗り込んでいく。これまで松阪駅前バス停では見たことのない光景である。約30人ほどが乗ったバスは定刻で松阪駅前を出発した。特にセレモニーや花束贈呈のようなものはなかったが、これまでと同じように、いつものように走り出したバスは多くの人に見送られながら駅前通りへと入っていった。
4月を待たず咲き出した桜に見守られながら熊野市へ向けてラストランだ。後の報道によれば終点の三交南紀では約10人ほどが降車したそうだ。
本州第2位の距離を誇る三重交通「松阪熊野線」をお届けした。昨年の10月からは平日のみ1往復と乗車機会の難しい中での運行となり、廃止に向けてのカウントダウンが始まっていたが、これほどの歴史のある伝統あるバス路線がなくなるというのはやはり寂しいものを感じた。
それでも3月の初めに乗車できたのは貴重な機会だった。のんびりとただ流れていく景色を眺めているのは、まさしく旅をしている気分になる。また鉄道よりも遅いバスという交通機関なのもまた、合理的な考え方が当然となった現代人が遠い昔に置き忘れた無駄だと思われたゆったりとした時間を無駄ではない自分の確かな時間にするには良い交通機関だった。それゆえに廃止が惜しまれる
利用者の減少が続けば今後も廃止路線が増えるのは必至なのだろう。直通する路線は失われてしまったが、熊野古道・丸山千枚田や鬼ヶ城等の観光スポットを巡る便利なバスがローカル運行されているので、ローカル路線バスで南紀の旅を楽しんでみてはいかがだろうか。
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