食べ物と並んで旅の大切なお目当てになるのが温泉。温泉街へ行くための移動手段を様々なタイプから選べる中、路線バスでのアクセスを用意している場所が結構見られる。
文・写真:中山修一
(温泉〜温泉な路線バスとその周辺の写真付きフルサイズ版はバスマガジンWebもしくはベストカーWebをご覧ください)
■温泉から温泉へ
そんな温泉へ行く路線バスは、観光拠点を始発に、一カ所の有名温泉地へのアクセス目的として区間が設定されているものが基本にして一般的と思える。
それとはまた別に、始発と終点がどちらもブランド力を持つ温泉地かつ、両端のバス停名にまで「温泉」の付くバス路線となれば、だいぶ珍しいイメージが一気に湧き出てくる。
そんな端から端まで乗ればずっと夢を見ていられそうな、バス停名を聞くだけでも極楽すぎるバスが本当に実在するのかどうか。
先日ふと、それに限りなく近い性質を持ったバスが、島根県に走っていると気付いた。
■一畑バスの温泉発「温泉」行き
注目するのは、島根県を代表する民営バス事業者の一畑バスが運行する「31系統 玉造線」だ。
31系統は、島根県内の松江エリアに位置する、日本最古の温泉の一つと言われる玉造温泉街と、宍道湖に面した松江しんじ湖温泉街の間およそ14kmを結ぶ一般路線バスだ。
両端のバス停名は「玉造温泉」と「松江しんじ湖温泉駅」。バス停名ベースで言うなら、玉造温泉 vs. 松江しんじ湖温泉(の電車の最寄駅)、といったニュアンスになるため、完璧な温泉地同士を結ぶバス、とまでは行かないかも。
しかしながら、始発/終点どちらのバス停名称にも「温泉」というドリームワードが含まれているあたりが、ほかの温泉行きバス路線とは異なる特別感と希少性を放っていて見逃せない。
■朝だけグルッと回ります
何かと温泉要素の濃い31系統に興味津々、ちょっと現地まで様子を見に行ってみた。前泊した館内にエスカレーターのある旅館がスッカリ気に入ってしまい、帰り際フロントの方に「また来ます」と言って宿を出た朝9時過ぎ。
温泉街の端に位置している玉造温泉バス停に歩いて向かい、まず時刻表に目をやる。31系統は松江方面が7〜19時台、玉造温泉方面が6〜19時台まで、それぞれ18便ずつのダイヤ設定になっていた。
時刻表を見なくても、待っていればすぐに来るほど頻繁にバスが出ているわけではないが、決して少なくもない。
玉造温泉発の朝の便には特徴があって、通常の区間距離13.7kmに対して15.2kmと、1.5km長く走る。これは始発停留所を出た後すぐに、バスが温泉街の外郭を回るような形で敷かれた、県道25号線を1kmほど北上。
その後、一旦温泉街のメインストリートに北端から入り、玉造温泉バス停の方向へ南下して戻るように進みがら、お客さんをピックアップして温泉街の南端付近まで行き、再度県道25号線に入り松江方面へと向かう経路を取るため。
玉造温泉のメインストリートは松江方面に向かって左側が川に面していて、右側に宿泊施設が並んでいる。一方通行ではないものの道幅が極めて狭い割に交通量はまあまあ。
もしかするとバス停の設置スペースと安全上の都合で、宿側にだけバス停を置きつつ、バスのほうを一旦逆方向に進ませ、利用者が無理なくバス待ち+乗降できるよう対策を取っているのかも。
いずれにせよ、泊まった温泉街を帰り際に今一度、バスの車窓から眺めていくというのも、ちょっとしたカーテンコールな余韻に浸れて、これはこれでアリ。
コメント
コメントの使い方