増便もフレキシブル
多客期にはすぐに臨時便や続行便が出せるのはバスならではのメリットだ。九州急行は福岡にも長崎にも営業所があるが、それでも手が足りない場合は、福岡側では西鉄グループ各社が、長崎側では長崎県交通局が続行便を出す。
さらに長崎県営バスは福岡にも営業所があるので、福岡発の続行も出せるフレキシブルさが強みでもある。
この1路線だけの運行のため、バスも高速車のみを導入すればよい。よって比較的身軽でもある。昔から西鉄系の西日本車体工業製新車が多く入り、現在では国内3社の純正ハイデッカーで占められる。
むしろ九州急行の現役落ちの中古車が出資各社に転属していくほどなのだ。かつては3列シート車も多く導入されていたが、最近は4列トイレ付車で運行されている。
九州号の運賃は鉄道対抗のため過去には値下げされたこともあるが、現在の普通運賃は2620円、往復で4800円だ。ちなみに鉄道の割引きっぷは往復で使える2枚きっぷ(特急普通車指定席)で6300円だが、ネット限定で7日前までに購入すれば片道2340円で利用できるので実質の差はあまりないと言える。
勝負は利便性か?
西九州新幹線の割引きっぷの詳細は明らかになっていないが、現在の割引乗車券の発売額よりも安くなることは考えにくい。それでも伝統的に高速バスと新幹線を含む鉄道があらゆる区間で死闘を繰り広げている九州なので、九州号の運賃はかなり意識してくるのは間違いないだろう。
よって運賃・料金の実質の差は新幹線が高いのは言うまもないが、東海道新幹線と東名ハイウェイバスほどの差はないものと推測される。
所要時間は在来線の博多-長崎間が特急列車で2時間程度、九州号が天神から最速で2時間15分程度。新幹線が開業すると時間では勝負にならないだろう。そうすると運賃はバスが若干有利になり、時間では新幹線がはるかに有利になる。問題は発着地だ。
九州号は博多バスターミナル・西鉄天神高速バスターミナルに停車するし、系統によっては福岡空港国際線ターミナルにも停車する。これは鉄道には真似できない利便性だと言える。実際に九州号で航空便の多い福岡空港で下車して乗り継ぐ乗客も多い。
乗り換えの有無は決定打になるか?
そして在来線で長崎まで直通する特急列車はなくなる。2時間未満になると思われる在来線と新幹線だが、必ず乗り換えが必要になる。時間優先のビジネス客は新幹線を選択する層が多いことが予想されるが、そもそもコロナでリモートが多くなっている現状でどれだけ取り込めるのかは予断を許さない。
ましてや一般の乗客は開業当時の「ご祝儀相場」期間は別として、いざ常用しようとすると乗り換えのわずらわしさが目立ってしまうかもしれない。
九州急行がどのような戦術に出てくるのかは未知数だが、もし会社の体力と車両やマンパワーに余裕があり、そもそも鉄道よりも定員が少ないバスをこれまで以上に頻発させるようなことになれば勝負はふたを開けてみるまで分からない。
九州にはSUNQパスという九州島内のほぼすべての路線・高速バスが乗り放題のバケモノ乗車券が存在する。もちろん九州号でも利用可能なので九州を横断的に旅行するにはバスの利便性がかなり高い特殊な地域だと言える。
本州からの旅行者が初めて天神に降り立つと、路線バスと高速バスのあまりの多さにひいてしまうという話は言い得て妙だ。