1940〜50年代のバス黎明期にタイムトリップ!! それは第3期公営バス発足期だった……

1940〜50年代のバス黎明期にタイムトリップ!! それは第3期公営バス発足期だった……

 1960年代後半から約50年、バスの写真を撮影してきた筆者の秘蔵コレクションから各時代へタイムトリップするこのコーナー。

 それぞれの写真には今となっては見ることができない車両はもちろん、事業者やデザイン、まちの光景や社会の一端が記録されている。そしてそれは日本のバスが歩んできた歴史の一端でもある。そこから見えてくる日本のバス史を解説する。

(記事の内容は、2022年11月現在のものです)
文・写真/交通ジャーナリスト 鈴木文彦
※2022年11月発売《バスマガジンvol.116》『写真から紐解く日本のバスの歴史』より

■戦後に集中した公営バス新設

現在はすっかり景観の変わった小田急線柿生駅前に停車する川崎市営の柿生線 後方に小田急バスのボンネットバスが見える(1967年)
現在はすっかり景観の変わった小田急線柿生駅前に停車する川崎市営の柿生線 後方に小田急バスのボンネットバスが見える(1967年)

 現在は民間移譲が進んだ結果、かなり事業者数が減っている公営バスだが、1980年代初頭の最盛期には、38を数える地方公営企業法に基づく都市公営バス事業者が存在した。それらのうち、3分の1を占める13市が戦後10年間、すなわち昭和20年代の発足であった。

 戦後間もない1946年12月に姫路市営バスが発足したのを最初に、1948年に尼崎市、八戸市、49年に伊丹市、荒尾市、鳴門市、岐阜市、50年に苫小牧市、川崎市、51年に小松島市、明石市、52年に倉敷市、54年に高槻市でそれぞれ市営バスがスタートした。

 公営バスの最初が東京市(現東京都)の1924年であることは知られているが、続く30年ごろまでに、市電を運営していた大都市公営交通を主体にバス事業の兼営が進み、その後戦時体制下の事情の中で地方都市が公営交通事業を発足させていく。

 そういう意味で、戦後のこの一連の公営バス発足は「第3期」の公営バスブームと見ることができる。

■民間の復興が十分でなかった産業都市が着手

川崎駅から東側の臨海工業地帯に向けて走った川崎市電の末期の姿(1969年)
川崎駅から東側の臨海工業地帯に向けて走った川崎市電の末期の姿(1969年)

 ではなぜこの時期に公営バス新設が集中したのだろうか。最も規模が大きい川崎市のケースを見てみよう。

 戦後の復興が進む中、川崎市は臨海部の工業化が進み、復員者の増加によって通勤などのバス需要は急増していた。当時川崎市内には2社の民間事業者があったが、まだ復旧半ばでとてもすべての輸送需要に応えられる状況ではなかった。

 そこで戦時中の1944年に市電を開業して公営交通事業に着手していた川崎市は、市民の要望に応える形で48年に市営バスとトロリーバスを計画、民間との競願など紆余曲折はあったが、50年12月に内陸部と臨海部を結ぶ路線で市営バスをスタート、翌51年にはトロリーバスも開業した。

 前項の写真は発足後まもなく内陸部の丘陵地の足を確保するために開設された柿生線を1967年に柿生駅で撮影したもので、開業当初のデザインから裾のマルーンの大きな弧型のデザインがなくなった第2期デザイン(グレーとブルー)のツーマン専用車(帝国ボディのいすゞBA741)である。

 実は市電とバス、トロリーバスの3つのモードを短期間に開業させたのは川崎市だけで、珍しい展開の仕方であった。すでにトロリーバスは1967年、市電は69年に廃止となっているが、なかなか川崎市電の姿が世に出ることは多くないので、ついでにこの項では廃止直前に撮影した川崎市電の写真を披露しておこう。

 戦後10年に発足した公営バスは、このように、戦災復興を進める中で、既存の民間事業者の復旧が行き届かないために公営でカバーしようとしたケースが多い。また、その急速に増加した需要のベースとなる工鉱業などが発達した都市が多かったのも特徴と言える。

 逆にそれゆえ、民間事業者の復旧が進み、営業力をつけてくると、民間との競合が顕在化してくる。1970年代ぐらいまでは双方が切磋琢磨したが、自家用車の普及や産業構造が変化すると、公営バス事業の運営は厳しさを増すようになる。

 この時期の公営バスは川崎市、高槻市、伊丹市、八戸市を除いてすべて民間移譲により消え去ってしまったが、そうした時期的な因果関係もないとは言えない。

【画像ギャラリー】戦後の復興が進み人の流れが活性化!! 労働者の「足」の確保のため全国で相次いで発足した公営バス(6枚)画像ギャラリー

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