■乗客サービスの裏で…
高速バスは前述の通りだが、一般の路線バスは高速バスほど自由に運賃設定ができず、通勤・通学・通院やお買い物の重要な足として相当な赤字路線でもない限り維持し続けた。大手の事業者では路線バスの赤字を高速バスの収益で埋める構図になっていたので、高速バスがどんなに盛況でも赤字は赤字だった。
それでもバスは消耗品で購入し続けなければならないのでコストはかさみ、現場の従業員、つまり運転士に還元する余裕はまったくなかった。
乗客サービスを維持し続けるために経費を捻出しなければならない。それで企業努力が万策尽き、行きついた先は人件費を抑えること(人件費を上昇させない)だった。どんな企業でも人件費に手を付け始めるとそれ以上の発展は望めないのは資本主義社会での原理であり、多くの企業が長い歴史の中で経験していることなのである。
バス事業者もご多分に漏れず、人口密集地で市場が大きな市場が見込める大都市周辺だけを見回しても劇的に発展した事業者は多くはない。
■もはや運賃を上げるしかない?
一方で運転士は退職者が多くなり、つまり定着率が悪く他業界との賃金格差が広がっていく。こうなると運転士の成り手も集まりにくく、残った運転士の平均年齢が上がることにつながった。これは現在、各事業者が減便や路線休廃止をする際に現に理由の一つとして明言していることであり、誇張でも何でもない事実だ。
運転士の待遇を改善したくても直近では物価高やコロナの影響で収支が悪化の一途をたどったので、もはや不可能な状態に陥っている事業者がほとんどだ。事業者の名誉のために付言しておくと、いち早く待遇を改善して運転士は依然として足りない中でも何とか充足しているバス会社もある。
それでも世間に付いてしまったバス運転士のイメージを払しょくするに至らず、全体として運転士不足は一向に改善する兆しを見せない。待ったなしの運賃値上げの理由として「運転士の待遇改善の原資」と明言している事業者もあるが、まだ少数なのが実情だ。
■乗客の変化も要因の一つ?
我々乗客は運賃を支払いバス会社のサービスを享受してきた側だが、一部の心無い乗客がいわゆる「カスハラ」として運転士の心を痛めているのも事実だ。現在のバスはワンマンなので、運転士一人で乗客対応をしなくてはならない。
運賃収受にともなう運賃箱の操作や、乗客からの乗り換えや停留所についての問い合わせ等は最低限の接客として業務上仕方がないとしても、さすがに言われのないクレームまで処理していたのではダイヤは乱れるし、営業所にクレームをねじ込まれても後の祭りであることが多い。
こういう場合の事業者の運転士に対する対応も概ね悪く、「お客様は神様」をはき違えた対応を続けてきたツケが運転士に回ってきている感さえある。
多くのバス乗客が乗降時に「お願いしまーす」「ありがとうございましたー」等の会話が成立しているのを見かけるが、直接乗客と接するバス特有の文化かもしれない。この乗客側の「あいさつ」の是非は別の問題としても、感謝を表す良い文化だと考える。本当に一部だがモンスターカスハラ客のようにはならないようにしたい。どちらにもメリットはないからである。
■行政や組合は?
行政が制度面で放置したことや、競争をあおるための無責任な規制緩和が事業者の体力減退を招いた面もある。また従業員の労働環境改善のために組織されているはずの労働組合が具体的な行動に出た例もほとんどないのも、存在意義を問われなくてはならないだろう。なにも労働三権を振りかざして闘争するだけが組合活動ではない。
いわゆる御用組合であっても、使用者側と事業存続のために知恵を出し合い実行に移すことはできたはずだ。それができないのであれば、組合費は何に消えていったのかと疑いたくもなるだろう。これだけ賃金水準が低ければ、消極論ではあるものの、組合費を払わないだけでも待遇改善になり得るからだ。
誰が悪いという犯人捜しをしている状況ではないので、その類の話ではなく様々な立場の人が少しずつ我慢して重要な交通インフラを守る努力をする、前向きなアイデアで議論をしないと早晩、時間切れになってしまう。
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