化石燃料を用いる内燃機関が排出するガスについては、環境問題への関心が高まる中、社会問題として認識されている。すでにご存じの通り、排気ガスに対する環境規制は日本のみならず世界中で厳しさを増している。そこで、排ガス放出に際して「最後の砦」とも言うべき、排ガス浄化装置について紹介しよう。
(記事の内容は、2023年7月現在のものです)
執筆・写真/石鎚 翼(特記を除く)
※2023年7月発売《バスマガジンvol.120》『試行錯誤のバス技術』より
※各システムの呼称は一般的なものを使用しています
■排気ガス浄化のためには複数のアプローチが存在

車両が走行する際に、環境に悪影響を与える排気ガスを極力減らす、あるいは有害な物質を取り除く、という目的に対する自動車業界のアプローチはいくつか存在する。
一つは充電式電気自動車や水素燃料電池バスのように、走行するためのエネルギーを化石燃料に頼らず、別な動力源を採用することである。燃料電池バスの仕組みについては以前もご紹介している。
続いて、有害物質を極力減少するためにエンジンに負荷のかかる発進時などに、モータなどで駆動をアシストする機構を付加するハイブリッド方式の導入があげられる。
これも蓄圧式ハイブリッドバスの仕組みは過去に紹介したので是非参照してもらいたい。さらに、エンジンを用いるものの、技術開発を重ねて、排気量の削減や燃焼効率の向上などその環境性能を極力向上させる方法が挙げられる。
しかし、後二者のように内燃機関を使用する以上、どうしても一定の有害物質が生じることは避けられない。そこで、環境性能のさらなる向上のために生まれた技術が、排気ガスを車上で浄化して大気に放出する仕組みである。
■環境規制の厳格化により「後処理」に脚光が集まった

ではディーゼルエンジンからの排気ガスにはどのような物質が含まれているのだろうか。
詳細に分析すると、炭化水素や二酸化炭素、一酸化窒素、金属化合物などなど、数十種類に及ぶ。燃料に含まれる化学物質のみならず、オイルに含まれる物質に起因するものも排出されている。
これらの中には水分やアルコールといった無害に近いものや、ごく微量で問題とされないものも多く、規制の対象とされていない物質も多い。
排出される物質のうち、規制の対象となるのは一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)である。なお、この他にもエンジンには黒煙の発生度合や騒音に対する規制が並行して存在する。
排ガスに関する環境規制は厳しさを増し、ディーゼル重量車(3.5t以上)に対する最新版である2016(平成28)年規制、いわゆる「ポスト・ポスト新長期規制」では、定められた条件においてNOxは0.4g/KWh、PMは0.01g/kWHが規制値とされている(平均値)。
なお、このほか一酸化炭素、炭化水素に対する規制も行われている。これらの規制値は新規に販売される車両に対する環境基準であり、旧規制値に基づいて過去に販売された車両も原則として走行可能である。
ただし、交通量の多い大都市圏においては、さらに厳しい条件が付されており、一定程度の年数を経過した車両(つまり旧規制に適合していた車両)については、走行できないとする条例が施行されている。
これらの厳しい基準に対して、いかに適合した車両を製造するか、これはまさに各自動車メーカーがしのぎを削って技術革新に挑んできた分野である。
前述のように様々なアプローチが存在するが、本稿では「発生した排気ガスをいかに浄化してから大気に放出するか」という技術について詳述しよう。
ちなみに、排ガスが発生するプロセス、つまり燃焼の改善によって排ガス対策を行うことを「前処理」、発生した排ガスに対して浄化処置を実施することを「後処理」と呼ぶことがある。今回は「後処理」がテーマだ。
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