運輸業界の運転士不足はどうなってしまうのか。代表的なドライバーという職種が以前はどうだったのかを振り返りながら、今後を考える参考にしていただきたい。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
(写真はすべてイメージで本文とは関係ありません)
■かつては頑張れば家が建った職だった
トラックドライバーは、以前は「しんどいけど数年間頑張れば家が1軒建つ」と言われるほど高給だった。働き方改革という言葉はなく、ブラックという言葉もなかった。現在の基準に当てはめれば今よりもブラックだったのかもしれない。しかし、その分だけ収入があったので例えば家を建てるためにドライバーは若いころから頑張った。
タクシードライバーはバブル期が頂点だったが、いくらでも長距離客がいて会社幹部でなくてもタクシーチケットを持っていて会社の経費でタクシーを使いまくっていた。誤解を恐れずに書くと、深夜の女性客はよく乗車拒否されたものだ。
1万円紙幣を振っても流しのタクシーは止まらず、メモ帳を振れば止まったという嘘のようなホントの話もあるくらいだ。トラックと同様に今の基準ではブラックかもしれないが、走るだけ水揚げ(売上)があったのでドライバーは競って街に出た。
■バス運転士は尊敬の対象だった
バスの運転士は現在のように鉄道会社の子会社ではなく、鉄道会社本体の社員であり給料はもちろんだが福利厚生も含めて鉄道従事者と同じ待遇だったので、近所からは「いいところに入社したうらやましい存在」に見えた。
事業者はバスをいくらでも購入して、時刻表がいらないくらいに増便して、高速バス路線網を拡充しサービス合戦を繰り広げた。勤務はやはり今でいうブラックだったろうがそれ以上の価値があった。
それが規制緩和で赤字を抱え始めると、根本的な対策をせずに鉄道会社から切り離し子会社にしてしまった。さらに細分化して同一の鉄道会社系のバス会社が何社もできて「一体自分の乗るバスはどこの会社なのか?」と、わからなくなるほどにまでなった。
■税金対策と人件費削減のため
これらの子会社化の理由は一つには常時赤字なバス会社を抱えることで税金対策になることと、もう一つは鉄道会社とは違う別会社ということで賃金体系を刷新できた、つまりバス運転士の賃金を安く抑えることを目的とした。
現在、大手私鉄の中でバス会社を一部でも鉄道会社本体で営業しているのは西日本鉄道だけだ。それでも福岡市とその周辺以外はすべて分社化されている。
それまで赤字の路線は持っていたが、他の利益の上がる路線でカバーしながら総合的に住民の足を守っていたのは忘れてはいけない。規制緩和によりもうかる高速バス路線に進出したバス会社が安い運賃で攻勢をかけたため、既存のバス事業者は稼ぎ頭の高速バスで利益が上がらず、まわりまわって赤字の路線バスを廃止せざるを得ない状況になったのは皮肉なものだ。
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