最近は公共交通機関のニュースが急激に増えている。もちろん乗務員不足による減便や路線縮小、そしてとうとう事業廃止事業者まで出てしまった。専門家やマニアだけではなく国民一般を巻き込んでの議論だ。現時点での問題を多角的に整理してみた。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
(写真はすべてイメージで特定の事業者とは関係ありません)
■金剛自動車の衝撃
各地でバスだけではなく鉄道にまで乗務員不足が出てきて大混乱の様相を呈している。衝撃的だったのは大阪の金剛自動車の事業廃止だ。すでにタクシー事業は2023年6月に廃止している。
バスに至ってはさらに前の2020年4月に貸切事業を廃止している。残ったのが乗合、つまり路線バス事業だけだった。同社が赤字を垂れ流すよりは廃止して事業縮小するほうが良いと判断したのは民間の株式会社としては至極当然の判断で苦渋の決断だったのは想像に難くない。
路線バス事業を残したのは公共インフラとして必要不可欠なもので、何とか運行は続けたいと願ってのことだったのだろう。しかしご多分に漏れず運転士不足と収益の観点から事業継続は無理と判断して沿線自治体に支援を申し入れていたのは多くのメディアから既報の通りだ。
鉄道会社のグループに属さない独立系事業者としては、いわゆる親会社が支援の手を差し伸べるということは期待ができず、かといって運賃を大幅に値上げすることも難しかったのは他の事業者と同様である。少し前まではデフレの嵐で物価高につながる行為はすなわち「悪者」呼ばわりされる恐れさえあったからだ。
ところが沿線自治体は支援を即時決断することはできず、そうしている間に当面の路線維持すら難しくなり、やむを得ず事業そのものの廃止を相談するに至る。前述したとおり、タクシーや貸切バス事業は廃止済みなので自治体は深刻な状況をこの時点で気が付くべきだった。
ようやく補助金の話が出てきたのだが時すでに遅く、同社は事業廃止を決断してしまう。唯一残った事業を廃止するということは会社をたたむことだ。それにともなう雇用の喪失も重大な問題ととらえるべきだった。
■犯人捜しはナンセンス?
ここに至って、犯人捜しをするのは無駄なことだ。みんなが悪いとしか言えないからだ。沿線自治体は早く状況に気が付いて支援すべきだったが、その原資は自治体の予算だ。
すなわち住民の税金のみならず国からの地方交付金も含まれる。それは広く国民の税金から負担することになり、行政の一方的な権限でそう簡単に決められることではない。そこには住民の意思を反映する地方議会があり、さらに時間がかかる議論になっただろう。
経済状況がデフレからインフレに急激に変わったことから国民の意識がついていけず、収益確保のために頻繁な値上げを行うと必ずと言っていいほど非難の嵐になる。我々国民の認識も問題だっただろう。
究極的には政府の経済対策や公共インフラの支援が足りないということになるのだが、それを決める国会議員や主にその中から選ばれる内閣を組織する閣僚は国民の選挙で選出されるので、内閣は国会に対して連帯して責任を負わなければならないことになっている。それは最終的に国会議員を選んだ国民(有権者)が責任を負うことになるのが日本の統治機構だ。
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