記者はバス業界を外側から取材して記事にしてきたが、免許を持っていても実際に職業運転士をしたことがないのでわからないことが多いのも確かだ。そこで富士急行グループで東京都のフジエクスプレスに臨時運転士としてバイト入社した。バス運転士日誌として一人前になれるかどうかの連載、本稿は新任運転士研修の模様をお伝えする。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
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■グループ合同の新任運転士の研修
バスファンにとって興味があるだろう研修の様子は6月発売のバスマガジン本誌で詳報するが、WEB版ではその概要をお伝えする。この研修は富士急行グループのバス事業者に新任運転士として採用された者が必ず行かなければならない合同研修で、山梨県の富士急バスをはじめ静岡県沼津市の富士急シティバス、東京都のフジエクスプレス等から新人が派遣され受講する。
バス運転士の経験がある者は2泊3日、ない者は4泊5日のロングランの集中した研修である。本研修は毎月開催され、直近の研修に参加しなければならないというわけではないが、ある程度の技能や基礎的な事項を各社で教育を受けたうえでの参加とする場合が多いようだ。
記者が所属するフジエクスプレスからは4月1日入社の2名が参加した。午前9時には山梨県に到着しておかなければならないことから、東京から参加する受講者はなかなか大変だ。午前6時50分に東京駅を発車する高速バスに乗車するように指示された。
■自社便だ!
東京駅に到着すると、河口湖方面行きのバス停はすでに列ができており、ほぼ外国人の乗客だ。バスが入線すると改札が始まるが、さすがというか当然というか、フジエクスプレス江戸川営業所の運行便だったので、格好としては自社便に業務で便乗するということだ。運転士に所属と氏名を告げ着席する。
本研修の前には2日間しかバスを運転していないので、ハイデッカー車をどう運転するのだろうかと、乗客目線ではなく運転士目線で技を盗もうとしたのだが、早朝出発と運転がソフトなため富士急ハイランドに到着する寸前まで寝ていた。運転士はこうありたいものだと、寝てしまった失態を自分の中でなかったことにする。
■2日間は座学
4月の研修には合計10名が出席していた。各人の都合や各社の考え方で、全員が4月入社というわけではない。すでに営業所で実車教習(乗客を乗せて運行する研修)をしている者や、記者のように最低限、バスを路上で動かすことができる技能の者までさまざまだ。
座学では2026年に創業100年を迎える富士急行の企業理念や、主に事故防止についての講義やグループ討論等があり、テストや発表を経て事例や理論を学ぶ。
中でも衝撃的だったのは、実際の事故映像だ。再現ドキュメンタリーではなく、ドライブレコーダーの本当に起こった事故の映像だ。バスのドラレコは様々な角度のカメラが連動しているばかりか、航空機のフライトレコーダーのようにギアがどの位置で速度がどれくらいだったのかまで記録されている。
その衝撃的な映像はトラウマものではあるものの、自分への戒めとして深く刻まれる。結論を言うとバスに限らず事故は運転者が「見ていない」ことがほとんどだ。しかし「見たつもり」であったことも事実なのだ。この違いが大きいことを思い知らされた。
乗用車を運転される読者の方も「見たつもり」「見たはず」は「見ていない」のと同じだということをご認識の上で事故防止の戒めとしていただきたい。「自分だけは…」は不特定多数が存在する道路交通においてはあり得ないと心すべきなのだ。
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