ほぼ東京都内の路線バスで運賃は220円。しかし乗車時間は約90分もあり、都内有数の長距離を誇るバスがある。しかも2021年は年に4往復しか運転されない。そんな不思議なバスに乗車してきたのでレポートする。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
【画像ギャラリー】90分のうち30分は無停車の不思議な路線バスに往復乗車!運賃は220円で電車より安く2020年は4往復だけのレアバス
なんと系統番号はなし!? 新宿駅西口〜よみうりランド線
件の路線は新宿駅西口から出発する小田急バスがそれだ。行先は「よみうりランド」で系統番号はない。新宿からよみうりランドに行くのであれば、小田急でも京王でも電車でで30分かからずに到達できる。
しかもこのバスは鉄道よりも運賃が安い。ところが所要時間は約3倍かかるので、始終着点で鉄道と競合とあってはそれほど需要があるとは思えない。
よってこの路線は季節運行になっていて、例年であれば6月から9月の休日のみ、日に数本が運行されるだけである。ところが新型コロナウイルスのまん延にともない、6月の休日のみの運行になってしまった。
つまり年に4往復しか乗車チャンスがないということになり、記者が乗ってみようと思いたったのが2021年の最終便の1本前つまり第3日曜日だった。
このようなネタをバスファンが放っておく手はないだろうと思ってはいたものの、新宿駅西口の小田急バスのバス停に到着するとすでに長蛇の列。全員乗車すれば間違いなく立席になり大変だろうと思われた。
実際には木更津アウトレット行きの高速バスが同時刻発車で、そちらも多数含まれていたものの、先着した「よみうりランド」行きには座席定員以上の旅客が乗り込み、満員御礼状態で午前9時に新宿駅西口を定刻で出発した。
担当車両は小田急シティバス世田谷営業所のいすゞエルガミオ(社番12-B3005)、つまり中型バスだ。まさかこんなに乗車するとは思っていなかったが運よく着席できた記者は、立席では辛かろうと様子を見ていると写真を撮る人が多く、まるで貸切バスの様相を呈していた。
この路線は新宿駅西口から甲州街道をひた走り、とりあえず調布に至る。ほぼ京王線をトレースする形だ。調布からは京王線を離れるが多摩川を渡ると京王よみうりランド駅に入り、よみうりランドのバスターミナルに向かう。
前述した通り、通常は電車で行くのがセオリーなので、なんとなくではあるが区間乗車が多い区間をつないだようにも感じるが、両端の数キロの区間を除いて区間乗車は難しい。
というのも、一般の路線バスであるにもかかわらず、京王線の笹塚付近から同じく京王線の調布付近までの約12キロメートルは無停車なのである。よって笹塚を出て立席であれば約30分間は座れない。
今回は特殊な路線であり今年の最終1本前というネタバスなので、旅客の多くはバスファンで乗車することが目的なのだろうから下車する人はほとんどおらず、区間乗車も鉄道駅を除いてはあまりなかった。
ちなみに30分間無停車であっても、走る道路は一般道で首都高速等は一切利用しない。またクローズドドアでもないので、隣のバス停までの乗車も可能だ。多摩川を渡る風景はこの路線の大きな見どころのひとつだろう。
小田急にせよ京王で行くにせよ、駅からよみうりランドまでは結局はバス等の別の交通機関に頼るしかないので、時間はかかっても乗り換えが面倒な場合は利用価値はある。
その点ではこの路線は文字通り乗り換えなしで直結なので便利と言える。そして、京王よみうりランド駅からの車窓がもう一つの見どころだ。よみうりランドは山の上にあるので、そこまでバスは登っていかなければならない。
よって峠を攻めるようなヘアピンカーブもあり、一気に標高が上がるために下界の景色がよく見える。
終点の「よみうりランド」に到着したバスは回送でバスターミナルの待機場所に入り、乗務員は休憩する。乗っていた旅客はほとんどがその場にとどまり、よみうりランドに行く様子はない。
新宿から90分間乗り通してきたほとんどの旅客はバス停の表示を撮影しながら折り返しのバスに乗車すべく、その場にとどまっていた。もちろん記者も例外ではない。