■観光ターゲットの高速バスの新しい姿
高速バスというと、1980年代終わりごろから大きく発展してきた中で、都市間を結ぶ路線が主流となり、どちらかというと地方の居住者が大都市へ出てくるという流動パターンへの対応が多かったが、近年こうした大都市に発生する需要を対象に、それほど長距離にならない観光地をめざす高速バスの新設が見られる。
先輩格の路線が、2022年7月1日に運行を開始した西日本鉄道の福岡~長門湯本間高速バスである。
西鉄が単独で運行する路線で、博多バスターミナルを始発に、西鉄天神高速バスターミナルを経て九州道、中国道を経由、長門湯本温泉、長門市役所前に停車して仙崎の道の駅/センザキッチンが終点。
ダイヤは午前福岡発、午後長門市発の1日1往復で、福岡からの観光ニーズを主なターゲットとした設定である。運賃は片道4000円、ウェブ限定の往復割引は7000円。
西鉄の高速バス新路線は2019年4月の福岡~阿蘇間(これも同様のコンセプト)以来3年3ヵ月ぶりで、今回は愛称を公募し、「おとずれ号」と名付けられた。
実際筆者が見たり知人が乗ったりした様子で推測する限り、福岡からの日帰り観光に結構利用されており、センザキッチンでお昼を食べて買い物をし、青海島一周の観光船にでも乗れば、手軽なレジャースポットになる。
その点では草津温泉も、旅館にこもる温泉街ではなく、さまざまな楽しみができるまちづくりを草津町が熱意をもって進めており、日帰り、1泊いろいろな利用が考えられ、高速バスも格好のアクセスツールになる可能性がある。
■ウィズコロナへの転換が見せる高速バス・貸切バスの意味
これら100~200キロ圏の観光地にアクセスする高速バスが受け入れられつつある状況は、コロナ禍の動向とおそらく無関係ではない。
2000年ごろによく言われたのは「アフターコロナ」という言葉であった。つまり“コロナ禍が収束したあかつきには”という期待を込めた言い方であった。しかし感染者数は一定レベルで減らない状況が続き、なかなか収束は見えない。
一方で、どんな状況下で感染するのか、どんなことに注意すれば感染を防げるのか、といったことがわかってきて、いわばコロナ禍と付き合いながら経済や生活を回す、ということができそうな状況になってきた。
そこで2021年の中盤あたりからは「ウィズコロナ」という言い方がメインになってきて、感染者数自体はそれなりに増えても病床使用率の逼迫が抑えられ、死亡者も減ってきた中で、2022年にはほぼ行動制限はなされず、外国人の入国などの規制も緩和傾向が明らかになった。
これにより、2022年夏ごろから目に見えて人の流動が戻ってきて、2021年までは利用者が激減していた新幹線や航空、そして高速バスも利用者が増えてきた実感がある。報道によれば航空もJRも(一般報道ではバスはあまり出てこない)旅客数の回復傾向は鮮明で、収支も改善し業績も持ち直しつつあるという。
ただし、報道を見るときに気を付けなければならないのは、あくまで増加や改善は前年同期比という点である。コロナ前と比べると、航空大手で60%、JR東日本の鉄道事業で70%というところだから、まだまだ回復までには至っていない。
バス事業にしても、一般路線は80%前後まで戻ったところが多いが、高速バスは50~60%、貸切バスは稼働が増えたとは言っても50%前後にとどまる。
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