■それでも必要な社会インフラ
人が住んでいる以上は、公共交通機関としての使命があるので廃止するわけにはいかず、細々と赤字を垂れ流しながら路線の維持をしてきた。駅までのフィーダー路線は二次交通として重要な社会インフラで、自社(当時のバスは電鉄直営)路線を利用してもらうために必要なバスでもあった。
しかし赤字を垂れ流す路線が多くなってくると、電鉄会社の経営を圧迫するジレンマに陥った。そこでバス会社を分離し、常時赤字でも電鉄会社の節税のために、または賃金体系を異なるものにして人件費を圧縮していった。これが現在のバス運転士待遇問題の遠因となった。
■路線を維持するために!
駅までの路線バスを維持するためには、収益性の高い路線を開拓しなければならない。そこで高速バスが登場する。高速バスは高速道路網の広がりとともにバス事業者が路線網を拡充し、増収につなげる。高速バスは運賃単価が高く、フィーダー路線バスと比較して収益性が良いので、平均してバス事業者の収益改善に寄与した。
一時は鉄道や航空機に対抗できるまでに発展した高速バスは、夜行も昼行も3列シートやサロン、茶菓子の提供等のサービス拡大合戦になり、バスのボデーメーカーも多くのタイプの高速バスを世に放った。
■無秩序な規制緩和が直撃弾に!
こうした高速バスの発展は駅までのフィーダー路線と直結することにより、遠くの目的地までバスだけを乗り継いで安く行ける状況を作り出し、バス事業者は飛ぶ鳥落とす勢いで遠隔地事業者との共同運行や路線開拓に走った。
そこへ規制緩和という暗雲が立ち込める。規制緩和自体は悪いことではない。政府が規制や許認可権を握っている限りは、健全な発展や競争ができず、そのうち頭打ちになる。
しかし無秩序な規制緩和を段階を経ずに行った結果、いわゆるツアーバスが乱立し、高速バスという電鉄系や専業バス事業者が長年にわたり苦労して培ってきたノウハウやビジネスモデルの美味しいところを持って行ってしまった。
もともとフィーダー路線バスを持たない、誤解を恐れずに言えば「お荷物路線を持たない」ツアーバスは電鉄系のような従来のバス事業者よりもはるかに安い運賃で座席を提供し、特に若者に熱狂的に受け入れられた。高速バス全体としては活況を呈したと言えるが、運行事業者の構造が変わってしまった。
その結果は、電鉄系バス事業者の高速バス路線廃止や整理、あるいは撤退だ。ドル箱路線の一部を失ったバス事業者は、路線バスの赤字を埋めるべく高速バスを開拓したのに、それすら赤字では走らせる意味がない。
それでもバス事業者は傘下の観光バス子会社や高速バス専業子会社に管理委託や路線譲渡という形で維持を図ったが、焼け石に水で撤退時期が伸びたに過ぎなかった。
一方の路線バスはデフレ圧力の中で運賃の値上げはできず、そのしわ寄せは運転士の待遇に直撃し置き去りにされた。そしてインターネットの普及で情報が氾濫し、それぞれの真偽は別としてバス運転士の職業としてのイメージが地に落ち、なりてがいなくなってしまった。
■公共とは何なのか?
このような歴史的、あるいは構造的な背景のもとでコロナ騒ぎ、2024年問題と立て続けに窮地に陥る出来事が襲ってくる。ついには中小独立系バス事業者が路線縮小や廃止を待たず、事業そのものの継続をあきらめ事業廃止、つまり会社の解散を選択するという事態にまで発展してしまった。
バスが走る道路は国や自治体等の道路管理者のものだ。自分で保線や整備をする必要はなく、道路管理者の責任においてすべてやってくれる。よって鉄道と比較してかかる経費は格段に安い。とはいえ、大量輸送には限界があり運転士一人が16両編成で1000人近くを輸送する新幹線とは比較するまでもない。
こういったバス事業者が歩んできた歴史的背景や社会現象も理解した上で、バス利用の際の乗客側の常識も変えていかなければならない時期なのかもしれない。運賃値上げの甘受はもちろんだが、苦しいときはお互いさまで「お客様は神様論」も厳に慎むべき考え方だ。自分が運転士の立場になった時の精神的重圧は少し考えればわかるだろう。
待遇面は乗客の力でどうなるものではないが、精神面で運転士をサポートする乗客の心得も必要なのではないだろうか。
【画像ギャラリー】【バス運転士不足問題】電鉄系バス事業者の苦悩と乗客の考え方改革(9枚)画像ギャラリー
コメント
コメントの使い方