いすゞが現在もモデルチェンジしながら発売している路線バス車両「エルガ」。全国で幅広く活躍中の、ごく一般的な大型路線車の一つで、数が多い分よく見かける顔のクルマといった印象を持つ。
文・写真:中山修一
(バスマガジンWeb/ベストカーWebギャラリー内に、タダモノじゃないエルガの写真があります)
■ごく普通(?)に見える大型路線バス
2025年5月の終わり頃、岩手県の千厩という場所を訪れ、同地にあるバスターミナルから、JR一ノ関駅方面へ向かう、岩手県交通の路線バス(本郷線)に乗ってみることにした。
バスターミナル内には、レジェンドな車種の一つに数えられる「いすゞキュービック」が停めてあり、これから乗るヤツも何か古そうなの来るかな? などと淡い期待を抱きつつバスを待っていた。
すると、一ノ関方面から千厩行きのバスがやってきて、それが折り返しで一ノ関行きに変わる模様。車種は「いすゞエルガ」だ。
■こいつ、タダのエルガじゃないぞ!
エルガのうち、角目ライトを縦2個ずつ左右に配置した、ひと世代前のタイプ。まだ首都圏でも4つ目エルガは依然使われており、その時は至って日常的に見かける顔に思えた。
バスが停留所に停まって中扉が開くと、床面まで1段ステップがあった。あれ、こんな内装のあったっけ? のような間を置いてから、そういえば4つ目時代のエルガはワンステップ選べたよね。
と、現在の首都圏を走るバリアフリー仕様ノンステップのエルガに慣れきって、すっかりエルガ=ノンステの図式が固まっていたせいか、車体の顔と内装が一致するまで少しラグが生じた。
バスに乗車して、進行方向右側の最後部のシートに落ち着く。走行を始めてすぐ、これまたエルガらしからぬ乗り味がすると思えてきた。
エンジンの音がヤケに野太く、腹に重厚な振動が直で伝わってくるほど力強い走り。いやこれタダのエルガじゃないぞ!?
乗る前までは大人しい風貌の、ごく普通の路線バスだと思っていたのが、羊の皮を被った特別な存在へと変わるとともに、バスも顔だけ見て判断してはいけないと痛感させられる瞬間だった。
■V8エルガ列伝
後日、乗車したエルガのプロファイルを簡単におさらいしてみたところ、元は国際興業バスで2018年頃まで使われていた、2005年式のエルガだった。
型式で書くとKL-LV280L1。この「LV280」シリーズは、エルガの中でも最初に発表されたバリエーションの一つで、2000〜2005年まで新車販売を行っていた。
タダのエルガじゃないと思えたのは、やはりエンジンにあった。LV280には何と排気量15,201ccのV8エンジンを標準搭載しているのが注目のしどころ。
もはや響きすら美しいV8を、まさか今日のバリアフリー対応車の代表格となるエルガが積んでいたとは、今となってはスペック面のギャップが大きすぎて意外に映る。
エルガはV8から始まったとも言えるが、2004年に7,790ccの直列6気筒ディーゼルを積んだ「LV234」シリーズが発売されると、LV234の割合が次第に増えていった。
LV280も首都圏のバス事業者などで一般的に使われていた時期はあったが、最初期のバリエーションということでLV234に比べると引退時期が早く、2025年現在では殆どが首都圏から姿を消している。
そんな動向も手伝って、V8エンジンを積んだエルガは、数あるエルガの中でも今や少数派、タダのエルガじゃないと思わせるに十分なパフォーマンスを秘めていそうだ。
V8エンジンを積んだバス車両は、峠道のようにアップダウンの激しい区間を通る路線や、雪国などで今も重宝されている様子。先日の岩手県交通で出会ったエルガも、そんな道路環境のニーズに応える車種選択なのかもしれない。
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