最初からいて最後まで残ったバスだと? 国鉄線代替バスの残り香を今に伝える「網走バス 常呂線」

最初からいて最後まで残ったバスだと? 国鉄線代替バスの残り香を今に伝える「網走バス 常呂線」

 1953年の全通〜1987年までの間、北海道の網走〜中湧別間89.8kmを、サロマ湖の近くを経由して結ぶ国鉄湧網線が通っていた。鉄道線廃止後は網走バスが代替バスを走らせていたが2010年に廃止されてしまい、以降はタクシー以外の公共交通機関で通り抜けるのが物凄く難しい区間へと変貌した。

文・写真:中山修一
(バスマガジンWeb/ベストカーWebギャラリー内に、網走バス常呂線とその沿線の写真があります)

■湧網線の残り香を今に伝える路線バス

国鉄湧網線の中継地点だった佐呂間。現在は記念館と保存車が数両置かれている
国鉄湧網線の中継地点だった佐呂間。現在は記念館と保存車が数両置かれている

 2025年現在のところ、網走〜中湧別間を走っていた代替バス路線は、町営バスをはじめ複数の運行事業者に分割され、事実上の“代替バスの代替バス”が各区間を結んでいる。

 物理的に見る分には今も1本の線で各路線を繋げられる。とはいえ、本数が極めて少なかったり、運転日が限られていたり、利用に予約が必要だったりと、鉄道や代替バス時代の要領で、毎日好きなときに行ける環境は残念ながら既にない。

2019年の時点で駅舎がゲートボール会館に転用されていた知来駅跡
2019年の時点で駅舎がゲートボール会館に転用されていた知来駅跡

 北海道でローカル路線バス旅をするにあたって、元・国鉄湧網線とその周辺の移動には常に悩まされる鬼のように高い壁が今やお約束であり、まさに最高難度を誇るチャレンジングな場所だったりする。

 そんな同エリアを走るバスの中で、民営バス事業者が毎日運行している、代替バスの残り香を今に伝える存在が、網走バスの「常呂線」だ。

■最初のほうからありました

 現在の網走バス常呂線は、網走市内の網走バスターミナル/網走駅前と、北見市にあるオホーツク海沿いの町・常呂(ところ)との間およそ33.9kmを結ぶ一般路線バスとなっている。

 常呂線の歴史はかなり古く、網走バスが設立される昭和20年代のごく初期の段階から存在していた、同社の名門路線の一つだ。

SLと旧型客車が屋外展示されている卯原内駅跡
SLと旧型客車が屋外展示されている卯原内駅跡

 経路は国鉄湧網線とほぼ同じで、鉄道線が営業していた時代の常呂線は、競合系バス路線の立ち位置だったとみられる。

 1987年の湧網線廃止にともない、網走〜常呂間の常呂線をベースに、鉄道線の線路跡をトレースするような経路で、佐呂間・中湧別まで延伸させたものが、鉄道代替バスの「湧網線」であった。

 網走バスの湧網線が運行していた時代の時刻表を参照すると、常呂線/湧網線ともに同じ項目に時刻が掲載されており、常呂線もまた、競合関係から国鉄線の代替バスの一部役割を担うようになった様子が窺える。

プラットホームが往時の面影を伝える能取駅跡
プラットホームが往時の面影を伝える能取駅跡

 2010年に湧網線の中湧別〜佐呂間〜常呂間およそ60kmの廃止後も、常呂線のオリジナル区間である常呂〜網走間は継続。バス路線的には元の状態に戻ったとも解釈できる。

 国鉄湧網線の息がかかった公共交通機関では、最初からいたものが最後まで残った形だ。

■大型路線車が繋ぐ代替バスの末裔

 2025年現在、網走バス常呂線は毎日運行ながら、平日6往復、土日祝4往復、平日の休校日5往復といった感じで、日によって本数が変わるダイヤ設定だ。

網走バス常呂線が発着する常呂バスターミナル
網走バス常呂線が発着する常呂バスターミナル

 北見市側は「北見市常呂交通ターミナル」が常呂線の始発/終点で、網走バスでの呼称は「常呂バスターミナル」。

 このターミナルは元々国鉄湧網線の常呂駅があった場所に建っているそうで、すぐ近くに線路から転用されたサイクリングロードが伸びており、うっすらとレールの痕跡をイメージできる。

網走バス常呂線は大型路線車での運行
網走バス常呂線は大型路線車での運行

 先日訪問した際には、名鉄バスとよく似た網走バスカラーの大型路線車(三菱ふそうエアロスター)がやってきた。

 小型バスやマイクロバスではない、長さ10.5mクラスのフルサイズの車を今も使用しているところに、バスの黄金期・昭和時代にできた剛健な代替バスの風格を受け取れる。

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