路線と貸切の違い
高速バスを含む路線バスと観光バスなどの貸切バスの大きな違いは、決まった経路を走るかどうかに尽きる。細かいことを言えばキリがないが、貸切バスの場合は乗合ではないので、貸し切られた乗車だけを2点間または周遊する形で運送する。
貸切バスでは運賃箱や運賃表、放送設備を操作する必要はないし、そもそも乗客とのやり取りもほとんどないし、バス停に付けることさえもほぼない。貸切バスはバスが走れるかどうかの確認や駐車場の有無を含めて毎回の運行計画を立てる必要はあるものの、そもそも路線バスと貸切バスとは労働環境が違う。
コロナの影響で観光バスの需要が相当に落ち込んだので運転手があふれる事態になり、こうした運転手が路線バスに転向すれば一時的ではあるものの運転手不足は解消されると思われたが現実には、そううまくはいかなかった。
前述のように貸切バスにはないことが路線バスには多すぎて(逆もしかりだが)、敬遠する運転手が決して少なくなかったのだ。同じ事業者で路線と貸切がある場合はまだ部署異動で済むが、観光バス専業の会社だと転職の必要があり、全体として運転手は高齢化しつつあるので、簡単に移籍するわけにもいかない状況もあったのだろう。
大型間の移動はあるようだ
バス事業者もさまざまな工夫を凝らして運転手の確保に全力を注ぐが、大型一種(トラック)と大型二種(バス)との間での相互移動は一定数あるようだ。トラックの運転手は高齢化が進むと荷役作業が辛くなる。
そこで力仕事がトラックほどはないバスの運転手に転向する形だ。上位免許である二種免許取得の必要があるが大型車の運転は慣れているのでワンステップで済み労力も費用もさほど掛からないメリットはある。
逆に乗客の対応に疲れて荷物相手に一人でトラックを転がす方が合っていると悟り、トラックに転向するバス運転手もいる。
技術の継承ができなくなる問題
運転手のパイを業界間で奪い合うような移籍合戦では将来を見据えた時には根本的な解決策にはならず、重要なのはいかに若い運転手を数多く育てるかだろう。高齢化が進むと定年で自然退職していく運転手が増え、若い運転手への技術継承が困難になる。
運転技術は教科書通りにはいかないテクニックや体で覚える技も多いので、ベテランから若手への技術継承は伝統芸と同様に重要だ。これは業界全体として経済面以外での大きな損失である。
長い目で見ると今後は事業者の体力勝負になると思われる。運手免許証に事業者限定はないので、若い運転手は待遇の良い事業者にすぐに移ってしまうことは目に見えているからだ。
免許制度の複雑化
以前は普通と大型しかなかった運転免許区分だが、中型ができて3区分になると、まずはトラック業界から悲鳴が上がった。従来の配送トラックを運転しようにも若いドライバーが年齢制限で中型免許を取得できないからだ。
これを受けて準中型免許できて4区分になる。これは行政が業界のヒアリングを怠ったか不十分なまま規制をしてしまい、陸運をぐちゃぐちゃにしてしまった例だろう。
もっとも普通免許で大型車に近いトラックを運転できたことから発生した事故を防ぐための措置ではあるが、安直すぎたのも事実だ。
運転免許制度の相次ぐ改正はバスではさほどの影響を受けていないように思われるが、現行の普通免許しか持たない人には大型免許は3つ上の免許ということになり、バス運転手を目指そうとする人にとって心理的にハードルが高くなっているということもあるだろう。