救命ボートはどうした?という意見
一般に動力の付いた救命ボートが小型船舶に積まれていることはほとんどない。船に積まなければならない装備は法律で決まっていて、船舶の大きさや操縦免許とは関係なく当該船舶が航行しうる海域(船舶検査証・車でいう車検証に記載されている)により異なる。
これは船主(船舶の所有者)がどこまで航海したいかにより海域を申請するが、近海より遠い海域を申請してしまうとそれに耐えられるだけの性能に向上させ装備品を積まなければならず、ヨットで単独太平洋横断でもするのでなければ現実的な海域を選択するのが普通だ。
例として旅客定員12名以上で総トン数5トン以上の旅客船で航行区域が沿海の救命設備を見てみると、定員の100%の救命いかだ又は救命浮器、定員と同数の救命胴衣、救命浮輪2個、信号紅炎(自動車でいう発煙筒の水上版)等々だ。
該船には救命いかだは装備されておらず、救命浮器が装備されていたようなので法律上の問題はない。しかし救命浮器は数人が漂流できる浮力がある「箱」なので体は水に浸かったままだ。
一方、救命いかだはガス膨張式で子供用のゴムプールのバケモノみたいなものに円錐形のテントが付いていて密閉でき、風雨や低温から遭難者を守る機能がある。
大型船には少数の動力のあるいわゆる救命ボートと、多数の救命いかだが積まれており、もちろん旅客定員以上ある。動力がある救命ボートは自力で逃げるためのものではない。
周囲に漂流している動力のない救命いかだを捜索し、ロープで結束して単独漂流にならずに固まって発見してもらいやすいようにするためにある。
そもそも太平洋の真ん中で小型の救命ボートにエンジンが付いていて多少の燃料があっても何の役にも立たず結局は漂流することになるので、そもそもエンジンが付いている目的が異なるのである。
通信が携帯電話だけとは何事だ! という意見
陸上を走るバスでも最近は携帯電話の他に自社の無線を積んでいるケースが多い。さて船舶では通信手段はさらに重要だ。バスが故障したり事故にあったりしても住所や道路上のキロポストさえ分かればバスは動かかないので、確実にパトカーや救急車が現場まで来てくれる。
ところが海上に住所はなく、あるのは座標(例えば緯度・経度)でしかない。その座標でさえ通信を行った時点での位置であり、船舶は潮に流されて動くので救助が来た時には、投錨でもしていない限りはそこにはいないというのが当たり前のように起こる。
そこで逐次座標を通報しなければならないのだが、もちろん無線電話または無線電信を1個備えなければならない決まりになっている。ところが限定沿海区域の船舶だと、主要航路上が通信可能であれば申請により携帯電話でもよいことになっている。
もちろん船舶用の衛星電話システムであるインマルサットでも構わない。それでも沈没等で通報のいとまがない場合に備えて自動的に人工衛星に自位置と遭難信号を発信するEPIRB等の装置もあるが限定沿海の船舶に設置義務はない。
記者は第四級海上無線通信士の免許を持っているが、実際には携帯用の国際VHF(世界共通の短距離用海上無線システム)や双方向無線機を除いて無線機が使えるのは遭難初期で、浸水し電源を喪失してしまえば電子海図も無線機もレーダーも使えないので、携帯電話でも構わないのだが、いかに早く第一報を発するかにかかっている。